フードロスとは、まだ食べられるにもかかわらず廃棄されてしまう食品のことです。2050年にかけて世界全体で人口増加傾向が続くと予想されており、それに伴って食糧不足が懸念されています。そのため、フードロスはSDGs(持続可能な開発目標)にも取り上げられ、いま最も注目されている社会課題のひとつといえます。
フードロス概要
FAO(国際連合食糧農業機関)によると、世界では毎年約13億tものフードロスが発生しています。これは、世界で生産される食糧の3分の1に相当する量です。
日本ではそのうち600万tもの食品が廃棄されており、これは東京ドーム約5個分もの量です。また、国民1人当たりにすると1日約130g、すなわちお茶碗1杯分も食料を毎日廃棄している計算になります。
また、ユニセフの報告では、世界の人口の10分の1ほどにあたる約8億人が栄養不足に陥っています。日本の食糧自給率は38%であるため、6割以上を海外から輸入しており、世界でこれだけの人が食糧不足に苦しんでいる現状を踏まえると、フードロス削減において日本が果たすべき責任は大きいといえます。
また、直近7年間の日本のフードロスの推移は以下のようになっています。
グラフからもわかるように、2018年度のフードロスは2012年度と比較してわずかに減少しているものの、この7年間ほぼ横ばいをたどっていることがわかります。
フードロスが与える影響
フードロスによって引き起こされる問題は、大きく3つあります。
まず、世界の人口増加に伴う食糧不足の深刻化です。2020年の世界の人口は約78億人と、この1年で8000万人も増加しました。さらに国連の予想によるとこの増加傾向は続き、2030年に85億人、2050年には97億人にも達するとされています。人口増加によって栄養不足に苦しむ人も増え、2020年は約8億人と、前年から1億人も増加しました。このことから、フードロスによって必要な人に食糧が行き渡らない状況が続く限り、今後も飢餓が拡大していくと考えられます。
2つ目は、環境破壊の助長です。日本では食品廃棄物を焼却処分しますが、その際に排出される温室効果のある二酸化炭素によって、地球温暖化の進行を招きます。食品廃棄物によって排出される二酸化炭素の量は全世界で36億tと、全排出量の約8%をも占めています。さらに、世界では焼却せずに埋め立てて処分する地域もあり、その際に発生されるメタンガスは二酸化炭素の約25倍もの温室効果があるといわれています。
3つ目は、経済的損失です。食品の生産や流通には多くのコストがかかっており、石油や水などの資源だけではなく、生産者や労働者が費やした手間や時間も無駄になってしまいます。具体的な損失額の算出は難しいですが、フードロスによる経済的損失は数兆円規模になるとの見方もあります。また、フードロスの削減によって人的リソースの無駄遣いも減り、働き方改革にもつながります。
・食糧不足、飢餓の促進
・環境破壊の助長
・数兆円規模の経済的損失
フードロスの原因
フードロスには、企業による事業系食品ロスと、一般家庭による家庭形食品ロスの2種類あり、それぞれ異なった原因でフードロスが生まれています。また、2種類のフードロスの内訳は以下の図のようになっています。
事業系食品ロス
事業系食品ロスは年間328万tあり、食品メーカーや生産者、小売店や飲食店など生産から消費までのサプライチェーンにおいて様々な原因によって引き起こされます。
事業系食品ロスの主な原因
・賞味期限に対して厳格すぎる商習慣
・販売機会の損失を恐れた大量発注
・災害やパンデミックの発生
・輸送、保管時の取り扱い
・製造過程で発生する印刷ミスなどの規格外品
・見込み生産による作りすぎ
なかでも、3分の1ルールと呼ばれる、食品小売業において賞味期間の3分の1を超えるものは納品しないという商慣習があり、これによって賞味期限まで多くの日数を残しているにもかかわらず行き場がなくなり処分されてしまう食品が多く発生しています。
家庭形食品ロス
家庭系食品ロスは284万tあり、原因の中には1人ひとりの意識次第で削減できる可能性が高いものが多く含まれています。
家庭用食品ロスの主な原因
・食材の買いすぎ
・作りすぎによる食べ残し
・賞味期限と消費期限の誤認
・保存方法の不注意による腐敗や傷み
・食べられるところまで捨ててしまう
・使い忘れによる期限切れ
これらの原因によるフードロス対策として、政府は「買いすぎない」「作りすぎない」「注文しすぎない」「食べきる」の4つを呼び掛けています。
もったいない!食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らそう(政府広報オンライン)
フードロスと新型コロナウイルス
2020年初めから感染が拡大した新型コロナウイルスも、フードロス加速の拍車となりました。特に2020年はオリンピック需要を見込んで、農林水産省が生産者に例年より食品の生産量を増やすように指示を出していました。オリンピック延期やイベント中止、休校による給食のキャンセルや飲食店の自粛要請によって食材需要は大幅に落ち込み、行き場のない食料品が大量に発生しました。
これらの余剰品を生産者が自力で売りさばくのは難しいため、結果的に多くのフードロスが発生しました。これを受けて、農林水産省は「元気いただきますプロジェクト」という支援活動を立ち上げました。生産者は余剰食品をショッピングサイトを通じて一般消費者へ販売し、その際の送料は農水省が全額負担をする仕組みになっています。
消費者にとっても余剰品を普段より安価で手に入れることができるため、国産和牛や、まぐろ、ぶり、鯛、ふぐ、蟹などの海産物、野菜、果物、日本茶、ジビエ類といった比較的高価な食品が人気を集めた。
フードロス削減に向けた取り組み事例
1. 法整備
日本は2019年10月に食品ロス削減推進法を施行しました。この法律ではフードロスを減らすための基本方針や行動指針を、製造業、小売業、外食産業などさまざまな食品関連事業者に示しています。また、毎年10月を食品ロス削減月間、10月30日を食品ロス削減の日と定めており、啓発資材の提供やイベントの開催などを実施しています。
食品ロス削減推進法とは?
この法律は、世界では食糧不足による栄養失調に苦しむ人が多くいる中、食糧の多くを輸入に頼る日本としてフードロス削減が真摯に取り組むべき課題であることを明示しています。フードロス削減のための基本的な視点として、①国民各層が主体的にこの課題に取り組み、食べ物を無駄にしない意識を定着させること、②まだ食べることのできる食品については廃棄することなくなるべく食品として活用することを明記しています。
2. IoT
フードロス削減に向けてIoTの活用が注目されています。例えば、ANAの空港ラウンジでは、ビュッフェ提供の際に発生するフードロスを削減するために、トレーの重量の変化をIoT重量計で計測し、それをもとにクラウドシステムから食材の需要量をなるべく正確に予測し、それにもとづき自動発注するという仕組みが導入されています。
例えば、以下のような企業が専用のクラウドを開発、提供しています。
SmartMat Cloud(株式会社スマートショッピング)
事業内容:
・重量計測による在庫管理
・自動発注
全日空、IoT重量計スマートマットを活用した食品ロス削減の取り組みを実施
まとめ
今回は、フードロスの現状として
これらをまとめて解説しました。今後、企業や自治体によるフードロス削減に向けた動きはさらに活性化する思われます。また、紹介したようにフードロスの約半分が一般家庭から排出されているという現状からも、企業だけでなくわたしたち1人ひとりの意識や心がけがフードロス削減に欠かせないでしょう。