世界的に広まりを見せるフードテックの中でも注目を集めているのが、植物由来の材料で生産される代替肉や、細胞培養による培養肉などをはじめとする代替タンパク質です。代替タンパク質の開発と発展は、地球温暖化や食糧不足といった世界が直面する問題への解決策の1つとして期待されています。
日本を始め、世界各地で代替タンパク質に関する取り組みが始まっています。日本では消費者の意識の変化もあり、大手企業が大豆ベースの代替肉を展開したり、ファストフード店でも取り扱いが増えています。日本はまだ代替タンパク質の理解が広まり始めたところですが、海外では既に広く普及している地域もあります。
この記事ではそんな海外で行われている取り組みを取り上げて、世界の代替タンパク質の今をお伝えします。
海外の代替タンパク質取り組み概要
代替タンパク質の取り組みは、特にアメリカで他の地域に先駆けて開発が行われていました。ベジタリアンやヴィーガンなどの生活スタイルや、健康や環境問題、動物愛護など消費者の意識に変化があったことが主な要因と考えられます。
現状の主なタンパク源である畜産に代わる、新しいタンパク質の確保を目指した代替タンパク質の開発は、世界各国で急速に始まっています。以下の画像は2018年1月時点で代替タンパク質の開発や、研究を行っていた企業や機関のカオスマップです。
この多くはアメリカの企業で、既に取り組みが始まっていたことがわかります。
次の画像は2021年1月のカオスマップです。
わずか3年で多くの企業が参入、スタートアップしたことがわかります。アメリカはもちろん、環境意識の高いヨーロッパでもスタートアップが始まっています。
これらの企業の中からアメリカ、ヨーロッパ、アジアのそれぞれの地域での取り組みをご紹介します。
アメリカでの取り組み
植物性牛肉
Beyond Meat(ビヨンドミート)社とImpossible Foods(インポッシブルフーズ)社はアメリカでも大きなシェアを持つ植物肉を扱う企業で、その特徴が肉の再現度の高さです。
既存の肉の代替品である大豆ミートなどと比較して、味、香り、食感が本物の肉に近く、精肉売り場で生の状態で販売されています。肉の再現度を様々なアプローチから徹底して追及しているため、現在も改善のため開発が進められています。
植物性卵・培養鶏肉
Eat Just(イートジャスト)社は、Just Egg(ジャストエッグ)という緑豆由来の植物性卵を販売する企業で、液状やシート状のものがあります。完全栄養食とも呼ばれる卵の栄養価、味、食感を再現する代替品は難しいとされていましたが、栄養価や再現性についても高い評価を得ています。
他にも、同社の開発した製品としてGood Meat(グッドミート)という培養鶏肉があります。シンガポール食品庁(SFA)の認証を受けたこの製品は、培養肉として世界で初めて販売が認証されました。シンガポールのレストランでナゲットやグリル用の切り身として提供されます。
Eat Justが世界初の認証を取得しシンガポールで培養肉の販売を開始(TechCrunch Japan)
ヨーロッパでの取り組み
植物性鶏肉・牛肉
スペインの企業、Heura(ヒューラ)はヨーロッパの100%植物由来代替肉を扱う企業の中でも特に注目を集めています。同社の製品は主に大豆とオリーブオイル、塩、スパイスを材料とし、他の植物性代替肉と比べて添加される成分が少ない分、製造工程の少なさが特徴です。
製品はもちろん、パッケージにリサイクルされた段ボールを使用し、メッセージが入っているなど、製品全体を通して環境への高いメッセージを感じられます。Heuraの製品は地元バルセロナのレストランで既に利用されているほか、イギリスでの販売を開始しています。
培養フォアグラ
フランスの企業であるGroumey(グルメイ)はフランスで初めて培養肉を扱い、主に培養フォアグラの生産を目指しています。フォアグラはフランスで有名な食材ですが、生産の過程で行われる強制給餌や管理などの生産方法に批判が集まり、国や地域によっては販売が停止されています。
その流れもあり、Groumeyは屠殺を行わないフォアグラを目指して、味の改善やマーケットの拡大など取り組みを進めています。培養フォアグラの第1弾の製品をレストランで試しているところで、今後の開発に期待がかかります。
アジアでの取り組み
植物性豚肉
香港の企業、Green Monday(グリーンマンデー)はアジアでの需要が高い豚肉の植物性代替肉であるOmniPork(オムニポーク)を販売しています。大豆をベースとしながら、米やキノコを配合することで、より豚肉に近い風味を実現しました。
中国だけでなくアジア諸国にも拡大しており、日本でもすでに一部の飲食店では利用されています。現在はひき肉のみの展開ですが、今後の開発に期待が集まっています。
エビ培養肉
Shiok Meats(シオックミーツ)はシンガポールに拠点を置くエビ培養肉を開発する企業です。2020年7月に日本の企業であるインテグリカルチャーと共同研究を発表しており、2022年の商品化を目指しています。
現在、一般に流通するエビは養殖がほとんどで、その生産プロセスにおける乱獲や、虚偽表示、排水、マイクロプラスチックによる汚染などが問題であると同社は説明しており、これらの改善に向けてアジア全体へのエビ培養肉の供給を目標としています。
まとめ
今回は、海外での代替肉を始めとした代替タンパク質開発の取り組みを紹介しました。昨今の環境、健康、動物愛護に対する意識の変化と問題の解決に向け、様々なタンパク源の代替品が世界各地で開発されていることがわかりました。
代替タンパク質の開発は味や食感、安全性、生産コストなどまだまだ課題は多いですが、既に植物肉は市場に流通していますし、培養肉も認証が進んでいけば、もしかすると数十年後には私たちの食卓に当たり前に並んでいるかもしれません。
今回ご紹介した企業以外にも様々なアプローチでタンパク源の代替に取り組む企業はまだまだたくさんあり、これからも増えていくでしょう。代替タンパク質の今後から目が離せません。