植物工場とは|未来の農業はどう変わる?メリットや課題を徹底解説!

植物工場とは|未来の農業はどう変わる?メリットや課題を徹底解説!

近い将来、人口増加による食料不足が大きな問題になると予想されています。その時に重要となるのが食料自給率です。国民を支えられるだけの食料を自国で生産し、安定して供給する仕組みを作ることが求められます。

日本では直近10年の食料自給率がカロリーベースでは37~39%、生産額ベースでは概ね66~68%と横ばいに変化しています。この数値はいずれも諸外国と比較しても低い水準であり、輸入に頼っていることがわかります。今後、食料不足問題の深刻化や輸送コストの増加を考えると、将来的に輸入を中心とする食料供給を続けるのは難しくなる可能性があります。

日本の食料自給率(農林水産省)

植物工場は、環境条件やその土地の土壌によらず作物を生産可能な施設として以前から注目されてきました。それぞれの作物について技術的に確立されれば、国ごとに必要な食料供給が可能になるかもしれません。今回はそんな植物工場の現状とメリット・デメリット、植物工場の将来について紹介します。

植物工場とは

植物工場とは、屋内で作物を人工的に生産するシステムのことで、光、温度、水の量などをコントロールした施設内で安定した作物の生産と供給を目指します。気象条件など不確定要素の多い農業と比較して、完全に管理され不確定要素をできるだけ排除したシステムが特徴です。

植物工場は、1957年にデンマークのクリステンセン農場でスプラウトの一貫生産を行ったのが起源といわれています。発芽から育成、収穫、包装、低温保存までを一連の工程で行って1週間で出荷する工業的生産と呼べる生産システムは、現在の植物工場のシステムに通ずる部分があります。

オランダは植物工場で有名な国で、日本の九州地方ほどの面積でありながら、世界2位の農業輸出額を誇ります。効率化が進んだオランダの植物工場で代表的な作物であるトマトは、面積あたりで日本の2倍以上の収量が得られ、それをヨーロッパ各地へと輸出することで農業国として世界的に知られることになりました。

人工光型

人工光型の植物工場は、光源に蛍光灯やLED、ランプを用いており、完全屋内でコントロールされた環境を作るタイプの生産システムです。人工光型植物工場の多くは水耕栽培で、室内を無菌状態を保つことで農薬の使用量を最小限にして安全性の高い作物を生産することが可能です。

まるでSFの世界!? 世界最大の完全人工光型植物工場の内部に初潜入して分かったこと(GetNavi web)

太陽光型

太陽光型の植物工場ではガラス室などの施設で光源として太陽光を利用しつつ、施設内の環境を管理し、コントロールします。天候などで日照不足になった場合には人工光で補助を行えるなど、人工光型ほどの厳密な管理体制がなく、土を利用した露地栽培に近い環境での栽培も可能です。

現行の農業

現行の農業は露地栽培と施設栽培にわけることができ、植物工場は施設栽培の発展型と考えることができます。ビニールハウスなどに代表される施設栽培は日本でも全国各地で行われており、旬の異なる野菜を一年中利用できるのはハウス栽培のおかげと言ってよいでしょう。

また、現在ではICTやIoTを活用した「スマート農業」に注目が集まっています。こちらは植物工場とは少し異なり、現行の農業にロボット技術やリモートセンシングなどの技術を活用することで、離農の問題が続く農業の効率化・省人化によって新規就農者の獲得と負担軽減を目指しています。

スマート農業とは

スマート農業とは「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」のことを指します。就農者の減少や熟練者の高齢化などが原因で人手不足や生産性低下が問題となる農業を、より少ない人手で効率よく管理して生産性を向上することが目的です。

具体的には、様々な農作業をロボット技術によって自動化することで省人化を実現したり、情報管理やデータ活用によって効率的な生産や経営を行っていきます。実際に農林水産省主導で「スマート農業実証プロジェクト」という実証実験が全国各地で盛んに行われています。

スマート農業(農林水産省)

植物工場のメリット・デメリット

植物工場、特に人工光型では現行の農業とシステムの性質が大きく異なります。当初は自然災害や気象条件など外部の要素によって収量が安定しない農業の問題点が、植物工場では解消できるとして注目が集まりました。土地が限られていて気候の変化が大きい日本において、植物工場は画期的なシステムですが課題もあります。

メリット

植物工場の大きなメリットとして、環境のコントロールが挙げられます。気温変化や風雨、病気などの外的要因は農業の生産性に大きく影響します。植物工場では、室内の環境を一定にコントロールすることで生産性を安定させ、外部の環境変化に関係なく一年中安定した生産が可能です。

また、植物工場での生産は場所にも縛られないため、倉庫や廃校などの遊休施設の活用が可能です。技術の向上などで工場の規模が小さくできればビルの屋上や一室に設置するなど、様々な空間の活用ができます。生産がうまくいけば輸送コストも減少し、都市部でありながら地産地消を実現するということも可能になってきます。

さらに、栄養価や安全性の面でも植物工場は期待されており、農薬を最小限あるいは無農薬にしながら、肥料や光のコントロールによって栄養価の最大化が可能です。一般的な露地栽培と比べて汚れや傷で廃棄になるようなことがなく、条件がほぼ同じなため形も揃い、衛生状態がよいことも利点の1つです。

デメリット

デメリットとして真っ先に上がるのが資金です。人工光型で代表的な水耕栽培をとっても、水の循環設備と施設内の環境管理のための空調や、光源などは最低限の環境で、より安定したシステムを考えるとコストは大きいです。施設内の環境の維持のために光熱費や水道代が農業と比べて高くなり、結果として作物の単価が高くなる傾向にあります。

設備にかかる技術やノウハウが不足していることも問題として挙げられます。稼働している現行の植物工場で生産されているのは多くはレタスのような葉物野菜で、その他の作物はほとんど技術的に確立されていないのが現状です。人工光型の植物工場では水耕栽培が基本のため、根菜類などは技術では不可能とされています。

日本での植物工場

日本はカロリーベースでの食料自給率が4割弱と低いですが、これは小麦や肉類、油脂類についての自給率が低いためで、生産額ベースでは7割近いです。これは日本での野菜の自給率が約8割と高いことが一因となっています。

このため、日本では植物工場で生産した作物は露地栽培の野菜と価格競争になり、工場が赤字で倒産するということも少なくありません。現時点の日本では、植物工場は現行の農業にコスト面で大きく劣っており、安全性などの付加価値を加味してもまだ露地栽培が有利という見方が一般的なようです。

一方で、国土が狭く台風などの影響を受けやすい日本において、コスト面の改善ができれば植物工場のメリットは大きいと考えられます。国でも継続して植物工場に対して支援を行っているほか、多くの企業が植物工場を軌道に乗せるべく日夜取り組んでいます。

施設整備への支援策(農林水産省)

植物工場の将来性

植物工場は現状では課題も多く技術的な進歩が期待されますが、農業の代わりというよりは新しい作物生産の手段として確立されることが予想されます。特に、気候や土地の性質に縛られないという観点では日本以上に期待が集まっている地域があると考えられます。

世界への進出

世界には砂漠や寒帯などの農業がほとんど不可能な地域が多数あります。農業が行えない土地への植物工場の導入はその地域の食料自給率の改善や食料が原因となる諸問題の解決にもつながり、施設のシステムとして完成していれば生産にかかる農業のような技術的なノウハウは必要ありません。

世界が直面するであろう食料危機を踏まえると、これから人口増加を迎える地域に対する支援の1つの形としてこのような植物工場の導入や運営の支援は有効であると考えられます。

スマート農業との相互利用

現在進められているスマート農業の技術はある程度植物工場への転用が可能で、逆もまた同様です。例えば、スマート農業で得られた環境条件のデータや無人化技術を植物工場に応用する、植物工場の施設管理技術をスマート農業に応用するなど、得られた知見や技術を相互利用して平行して発展を進めていくことが重要だと言えます。

植物工場とスマート農業のどちらにも長所・短所があるため、それぞれの適性を活かして効率のよい生産体制を構築しながら、相互に影響して発展していく姿が将来の姿として望ましいのではないでしょうか。

まとめ

今回は植物工場について解説しました。植物工場はアグリテックとも呼ばれ、フードテックと合わせて新しい時代の作物生産システムとして大きな期待がかかります。課題も多いですが、日本だけでなく世界的にも植物工場のシステムの確立は食料問題の解決など重要な意味を持っており、今後の植物工場の発展に注目が集まります。