個人事業主として独立する際に最も気を付けなければならないことは、病気やケガにより働けなくなった場合や、取引先から売上を回収できなかった場合における収入や生活基盤の確保です。
サラリーマンなど会社組織に所属していれば社会保険に加入していますので、病気や事故、あるいは家族の介護による介護休業時にも手当の支給を受けることが可能です。
しかしながら、個人事業主やフリーランスは企業に属していないため、自己責任の元、自らリスクに備える必要があります。そうした万が一の場合に備えて、検討すべき事項が「保険の加入」です。
事業保険は個人事業主に対する商品もありますが、主には企業に対するニュアンスが強く「法人保険」と表現されます。この記事では「個人事業主」の皆様の保険検討の参考となるようにあらゆる視点で解説します。
保険の種類
個人事業主の保険には幾つかの種類があります。今回はその中でも、万が一のリスクに備えるための役割を持つ2つの保険について解説します。
1. 生命保険
2. 損害賠償保険、個人情報漏洩保険
生命保険
生命保険は、事業主の死亡を対象とする保険です。死亡のみならず、傷病や障害などに関する医療特約が含まれている商品、掛け捨てタイプの商品や、満期時に返戻金が支払われる貯蓄性の高い商品があ ります。
日本では数多くの生命保険会社・販売代理店が存在します。保険会社ごとに用意されている保険商品も多種多様であるため、その複雑な中身に混乱してしまう方も多いでしょう。生命保険のタイプは大きく3つに分けられます。
定期保険
定期保険は、保険期間が決まっている生命保険です。契約した保険期間内に保険料を定額で納め続け、保険期間内に死亡した場合に保険金を受け取れます。
満期があるため、保険期間が終了すれば保障も受けられなくなります。満期返戻金もありませんが、毎月の保険料を安く抑えられます。いわば「掛け捨て」の保険です。
終身保険
終身保険は、加入者の死亡もしくは高度障害状態になったときに死亡保険金が支払われる制度です。
保障が一生涯(加入している限り)続くため、葬儀代や相続税対策に備えて活用することが多い保険です。
養老保険
養老保険は、一定期間の死亡保障と将来に向けた貯蓄機能を兼ね備えた保険です。契約期間内の保障が受けられるという点では定期保険と共通していますが、養老保険の場合は満期になると満期返戻金を受け取れます。
そのため、万が一の死亡や高度障害状態になった時に備えるだけではなく、定年退職後など老後の生活費に充てられる、貯蓄性の高い保険です。
ただし、毎月の保険料の支払いが大きいことと、途中解約をしたら元本割れをする可能性が高いことがデメリットでもあります。
損害賠償保険
個人事業主が事業を営む上で、最も注意しなければならないのは業務中の事故です。
例えば、ハウスクリーニング事業者がお客様宅内の備品を誤って破損してしまった。取引先の機密情報を紛失してしまった。勤務中に車の事故を起こしてしまった。といったように、物損や情報漏洩など、取引先に損害を与えてしまう事故です。
そのような事故を起こして相手に損害を与えた際、多くの場合は金銭による解決を求められます。
損害賠償保険は、業務上の事故などで取引先に損害賠償を請求され金銭的な解決を求められた際など、業務上で起こりうるリスクに備える保険です。
損害保険会社では、事業のジャンルによって様々な保険商品があります。例えば、業種別プランや、示談代行サービスが付帯されている商品もあります。
もちろん、仕事において事故・トラブルを起こさないようにあらゆるリスクを想定することは最も大切ですが、万が一の事態に備えることで、ダメージを最小限に抑えることが可能です。
保険の選び方
保険の種類は多種多様で「どれを選べばいいかわからない」といったお悩みを持つ方も多いでしょう。選び方の前に、一番やってはいけないことをお伝えします。それは、「初めから保険会社に直接相談すること」です。
保険会社の営業は、保険のプロであると同時に販売のプロです。保険営業は自社の利益を残すことが優先されます。そのため、最終的には自社の商品、もっと言えば自社にとって利益率の高い商品を強く勧めてくるでしょう。
あらかじめ準備をしないまま、保険会社に相談すると、保険営業マンに言われるがまま不要な保険やサービスが付帯された商品を契約してしまいかねません。
あらゆるリスクに備えることは大切ですが、全てのリスクをカバーするように保険を掛けてしまうと、保険料の支払いが負担になります。また貯蓄性がある商品も一見お得ですが、資産運用としては利率が低いため悩ましいところです。保険と資産運用は別に考えた方が良いでしょう。
保険会社は相談先として考えず、商品上の気になる部分の質問や、契約時に手続きをしてくれるだけの存在と割り切って付き合うようにしましょう。
保険加入の目的(想定されるリスク)を明確にする
私たちは、日々あらゆるリスクの中で生活や仕事をしています。その中で、保険とは万が一何かがあった時に金銭的なダメージを抑えるために加入するものです。
車を業務で使用する方は交通事故のリスクが高くなりますし、パソコンを使用して取引先の機密情報を扱う場合は、サイバー攻撃による情報漏洩のリスクがあります。生活が不規則な方は、病気のリスクも高くなるでしょう。
そうした、身の回りのリスクを想定した上で、優先的に加入すべき保険を検討しましょう。ただし、中にはあらゆる特約やサービスが付帯された商品もありますが、月々の支払が高額になる場合もあります。
また、家族構成によっても検討すべき項目は変わります。例えば、子どもが小学校低学年の場合、大学卒業までの教育費をカバーするといったことも目的となります。
将来のライフプランも含めて考えてみましょう。
必要保障額を計算する
死亡してしまった場合、葬儀や埋葬、遺品整理にもお金が掛かります。残された家族に迷惑を掛けないためにも、どれくらいお金が必要になるか計算しておくことが大切です。
仮に「明日事故で死んでしまったら」と、極端に考えてみることをおすすめします。そうでなければ、具体的にイメージできないからです。特に、日本人は亡くなった時の話は不謹慎と考え、したがらない傾向にあります。実際にはいつ何が起きるかはわかりません。
自分が亡くなった後は必ず身内の誰かが、様々な手続きをします。そこではお金に関わるトラブルや問題が少なからず起きるようです。終活は、高齢になってから始めるのではなく、働き盛りの内に時間を作って進めるようにしましょう。
生命保険加入に関しては、万が一の場合でも残された家族が、金銭的な負担がなく生活を送れる金額を計算しておきましょう。
保障が必要な期間を検討する
続いて、保障が必要な期間についても考えましょう。生命保険に関して言えば「死亡してしまったら自分でお金は受取れないし、終身保障は不要では?」と考える方もいるかもしれませんが、最も注意しなければならないのは、死亡した場合ではなく「生きているが働けない状況にある場合」です。
この場合は収入がない上に、治療代・入院代といった高額な医療費が毎月掛かります。日本人の平均寿命は84歳ですが、生涯健康でいられる健康寿命は74歳と、10歳も開きがあります。
日本の認知症有病率は2.33%とOECD加盟国の中では最多となっています。内閣府の高齢者白書によると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるという推計もあります。(内閣府 高齢者白書)
個人事業主の場合、自分の稼ぎが全てとなります。生涯働き続けられるように、健康に気を配り自己管理を徹底するとともに、万が一、働けなくなった状態でも生活を維持できるように、保障期間・内容を検討すべきでしょう。
加入する保険の種類を検討する
必要な保障額と保障期間が決まったら、加入する保険の種類を検討しましょう。ここまでである程度選択肢を絞込むことで、必要性の低い保険商品は選択肢から外すこともできるでしょう。
保険料は高ければいいというわけではありません。保険料を抑えつつ、必要十分な保障を受けられる保険商品を検討しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。個人事業主やフリーランスは会社組織に縛られない自由な働き方が実践できる一方で、万が一の場合も自己責任で対応しなければなりません。
「もし、病気になって働けなくなったら」「もし、事故で死亡してしまったら」「もし、取引先から損害賠償を請求されたら」といったようにあらゆるリスクを想定することで、万が一の事態でもダメージを最小限に留められます。
ただし、あらゆるリスクを想定するがあまり、割高な保険商品を契約するのも考えものです。今回ご説明した通り、はじめから商品について調べるのではなく、いつまでにどれくらいのお金が必要かといったライフプランの設計や、事業上のリスクをかんがみた場合の必要な保障内容を考えた上で、自分にぴったりの商品を検討してみてください。
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