医療業界のDX|紙カルテや対面診療の現場にメスは入るか

医療業界のDX|紙カルテや対面診療の現場にメスは入るか

少子高齢化による医療サービス需要の増加で昨今日本では医療従事者ならびに「医師不足」が懸念されています。2018年に経済開発協力機構(OECD)がまとめたデータによると、日本の人口1000人当たりの医師数は、35カ国・地域中28位の2.5人で、ドイツの4.3人やイギリスの3人と比べても少ない値です。

また、不規則な働き方が多い医療現場では、夜間の診療や緊急時の搬送などの環境下で医師の「過労働」も問題視されています。「超高齢化社会」が進むと予想される中、「対面診療」や「紙カルテ」を主とする医療機関の存続の道は岐路に立たされているかもしれません。

「医療のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化」による業務効率化、体制整備が求められています。

DXとは何か

DX(デジタルトランスフォーメーション)スウェーデンの学者、エリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念であり、様々な定義が各専門サイトで名づけられていますが、bizlyでは、「デジタル技術によってもたらされる新しい「価値」で、ビジネスモデル/ライフスタイルが大きく変容するさま」とします。近未来で言えば、自動運転技術や、AIによるカスタマーサポート(チャットボット)、ドローン技術による農業の農薬散布などは分かりやすい例と言えます。

このような「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」は、すでに現在進行形で進みつつある時代にあるといえます。この変化は段階を経て社会に浸透し、大きな影響を及ぼします。

インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入され、次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになりえます。

製造業が製品(モノ)から収集したデータを活用した新たなサービスを展開したり、自動化技術を活用した異業種との連携や異業種への進出をしたり、シェアリングサービスが普及して、モノを所有する社会から必要な時だけ利用する社会へ移行し、産業構造そのものが大きく変化していくことが予想されます。

コロナ禍での変化

新型コロナウイルス感染症の流行は、医療業界に大きな変革の機会をもたらしたと捉える見方もあります。これは予約受付の在り方に始まり、オンライン診療の積極的導入、新型コロナウイルス感染者の対応や院内の人手不足に対応するため、デジタル化は前進しています。

従来、初診では対面診療が原則とされていて、オンライン診療は特定の疾患を対象にした2回目以降の診療でのみ認められていましたがコロナ禍による受診控えを解消するべく規制が緩和されています。この緩和は時限的ではありますが、医師が医学的に診断可能と判断した範囲であれば、初診を含めてオンライン診療が可能とされています。患者自身の感染リスクを減らし、また医療の地域差解消にも寄与するためメリットが多くあります。

日本の医療機関におけるDXの活用と課題

国内では、「IT導入補助金」や「医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援のための補助金」などの補助金制度を通して、医療機関への電子カルテなどの普及を進める動きが活発になっています。さらに近年は、医療機関向けのシステムを開発するIT企業が増えてきており、AIやloTなどの最新技術を活用したサービスを提供しています。

活用例① AI問診票

AI(artificial intelligence:人工知能)技術はすでに医療機関にも導入され始めています。これまで病院診療所ではWeb問診票が活用され、来院時に患者が紙に症状などを記入する代わりに、タブレットやスマートフォンに表示された問診票に入力することで、待ち時間の短縮などを可能にしたサービスはありました。

これに「人工知能」の技術が加わることで更なる効率化が生まれ、例えば、Ubie(ユビー)株式会社が提供するAI問診ユビー」は、電子カルテと連携しており、AIを活用して、患者が入力した問診票から想定される病名まで出てくる画期的なシステムがあります。

活用例② 在宅診療支援サービス

AI技術は医療機関内だけにとどまらず、株式会社オプティムが提供する「Smart Home Medical Care」は、患者が自宅で自分らしい生活を送れるよう、体調や室温を検知できるセンサーやAIカメラなどを用いて、自宅のベッドの機能性を向上するとともに、症状管理やスタッフの勤怠管理など、在宅医療に関わる様々な医療業務を効率化するシステムがあります。

こうした技術を集約することで、医師不足やインフラの問題で解決できなかった諸問題の解決につながります。「地域医療包括ケア」の構想は、厚生労働省から発信されたもので、 ひと言でいえば、「地域包括ケア」とは、「医療や介護が必要な状態になっても、可能な限り、住み 慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を続けることができるよう、医療・介護・予防・住ま い・生活支援が包括的に確保される」という考え方です。 そのしくみ(ネットワーク)を「地域包括ケアシステム」といい、2025年(平成37年)を目途に構築することを目指しています。(引用元:厚生労働省 近畿厚生局)

2025年を目前に控え、各地方における取組みは、今後注目されるべき点です。この構想には共通のモデルスキームはなく、地域の特性、体制に特化した独自のモデル構築はが必要となり、DX化が大きなヒントをもたらすことは言うまでもありません。

プラットフォーム活用についてはソフトバンク社などが以下サービスを提供しています。

活用例③ 医療情報プラットフォーム

ソフトバンク株式会社が提供する健康・医療情報プラットフォーム「HeLIP(Healthcare Local Information Platform)」は、医療機関をはじめ、介護支援施設や薬局などの各機関をシステムで連携することによって、患者の持病や接種状況、過去の診療履歴などが閲覧できるシステムです。

まとめ

人材不足×地域格差×超高齢社会、これらの問題を包括的に課題解決していくために、IT技術の導入は不可欠なことは周知の事実です。

いかに全国の医療機関が協働の中で体制づくりをしていくか、その指揮を地域の誰がイニシアティブを取るのか、2025年問題に向け、またコロナ禍のひっ迫した医療業界の中で同時並行に改革を進めていくのは容易なことではありません。

電子カルテをひとつ取っても課題は山積しています。厚生労働省の医療施設調査(2017年)によると、電子カルテの普及率は、一般病院で46.7%、一般診療所で41.6%という現実があります。また、2020年に野村総合研究所が発表した報告書によると、欧米諸国のデンマークやオランダでは100%近くの医療機関での導入が実現しており、日本は後れを取っていることがわかります。

電子カルテに記録されているデータベースは様々なシステムと連携するうえで必要不可欠であり、こうした一つ一つの課題と向き合い解決に導くことが政府、自治体の力が試されるところです。

「医療×IT」が抱える課題
・コストが高額で費用対効果が見込めない
・医療現場にIT人材が不足している
・レクチャーの時間が確保できない
・操作方法が複雑

Bizlyでは、産官学連携で日本社会全体として取り組むDX化のテーマを今後も題材として取り上げます。