厚生労働省が発表した「令和6年版労働経済の分析-人手不足への対応-」によると、小売・サービス業における「正社員」および「パート・アルバイト」が「人手不足」状態にあると回答した事業所の割合は、50%を超えています。さらに、正社員が不足していると回答した事業所のうち69.4%が、当面解消する見込みのない不足であると認識しており、労働力不足の深刻さが浮き彫りになっています。
小売業界のさらなる発展のためには、この構造的な人手不足への迅速な対応が不可欠です。そこで大きな鍵となるのが、業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化です。DXとは経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」で以下のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
本記事では、小売業界のDX化に着目し、人手不足をはじめとする現状の課題やメリット・デメリット、実際の導入成功事例を紹介しながら解説します。
小売業界のDX化における課題
慢性的な人手不足の解消や顧客満足度の向上に向けて、迅速な対応が求められている小売業界では、以下のような理由からDX化が依然として停滞しています。
1.業界のDX人材不足
DX化を推進するには、高度な技術や知識を有するDX人材の確保が不可欠です。しかし、人手不足が激しい小売業界ではIT人材の確保自体が難しく、運営の外部委託や新たなDX人材の育成にも莫大なコストと時間がかかります。その結果、DX導入に踏み切れない企業も少なくありません。
2.レガシーシステム刷新の壁
多額の決済処理や大規模な在庫管理を行う小売業界には、レガシーシステムと呼ばれる、過去の技術や仕組で構築された既存システムが存在します。使い慣れたシステムを用いた管理体制の変革に戸惑う企業が多いことも、小売業でのDX化が停滞している要因のひとつです。
独立法人情報処理推進機構の「DX動向2024」によると、小売業において「ほとんどがレガシーシステムである」と回答した企業の割合は17.9%であり、情報通信業の2.6%と比較すると非常に高く、レガシーシステムの刷新に抵抗がある企業が一定数存在することがうかがえます。
小売業界DX化のメリットとデメリット
小売業界におけるDX化の推進は、業界が直面する課題の解決に大きな希望をもたらす一方で、懸念も少なくありません。そのため、メリットとデメリットの両方を把握し、慎重に実施することが重要です。
メリット
1.省人化による人手不足解消
例えばセルフレジや自動販売システムの導入は、業務の省人化を実現し、人手不足の解消につながります。加えて、在庫管理をデジタル化することで、従業員の負担を軽減しつつ、これまで在庫管理に充てていた人員を、ほかの業務へ配置することが可能になります。
2.顧客満足度の向上
OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)の活用によって、顧客満足度の向上が期待できます。OMOを用いたサービスの例として、店舗在庫のEC(Electronic Commerce)サイトへのリアルタイム反映が挙げられます。顧客はオンライン上で手に入れたい商品が近くの店舗にあるかを確認できるため、来店したものの商品が売り切れていたといった事態を防ぐことができます。
デメリット
1.多額の導入コスト
DX化を推進するにあたって大きな課題となるのが、初期費用やメンテナンス費用などの導入コストです。小売業界では、DX人材の不足によりシステムメンテナンスを他社へ業務委託するケースが多くあります。そのため、導入後も継続してコストが発生することを懸念し、DXの導入を躊躇する企業も少なくありません。
2.従業員・顧客の心理的抵抗
すでに定着している業務フローの変更は、従業員の心理的抵抗を生む要因となります。また、セルフレジなどの新たな仕組みに困惑する顧客も多く、結果として顧客離れを招く可能性があります。
小売業界におけるDX導入事例
小売業界のDX化は、デメリットを考慮する必要があるものの、人手不足の解消や顧客満足度の向上といった大きなメリットをもたらします。ここでは、実際に小売業界のDX化を成功させた事例を3つ紹介します。
1.予約システム
予約システムは予約受付から決済、顧客管理、集客までをすべて自動化し、データ管理の効率化による人手不足の解消を実現します。業界トップシェアを誇るクラウド型予約システム「RESERVA(レゼルバ)」は、350業種以上に対応しており、その使いやすさから35万社を超える企業に導入されているほか、機能においても100種類以上を備えています。
定着した業務フローの改革を懸念する小売業界にとって、システムの使いやすさはDXの導入に不可欠です。例えば、新商品や限定品の発売に伴い入店整理を行いたい場合、LINE連携機能を利用することで、入店整理実施のお知らせから予約受付、そしてリマインドメールの送信までを店舗の公式LINE上で完結することが可能です。顧客は普段利用しているツールから予約可能になるため、予約に対するハードルの低下が期待できます。
そして、RESERVAの最大の特徴の1つとして挙げられるのが、企業の用途やニーズに合わせた6種類のプランを提供している点です。フリープランであれは無料で利用できるため、DX化にあたり導入コストを懸念する小売業界にとって、大きな利点となります。
参考サイト:RESERVA公式サイト
予約DX研究所「小売業の新戦略!予約制サービスの導入で業務効率と売上が向上」
2.RFID(アールエフアイディー)タグ
電波や電磁波を介して非接触で情報を識別できるRFID(Radio Frequency Identification)タグの活用は、決済作業や在庫管理を簡易化し、業務の省人化を果たします。
ユニクロはソリューションプロバイダーであるAvery Dennison(エイブリィ・デニソン)と連携し、RFIDタグを使用したセルフレジを導入しています。商品の値札にRFIDタグを搭載することにより、顧客はセルフレジの読み取りかごに商品を置くだけで会計が可能です。RFIDタグを用いたレジシステムは、従来のセルフレジにおいて顧客の負担となっていたスキャン作業の手間を削減し、レジ待ち行列の解消を実現しています。
さらに、RFIDタグの導入により商品の在庫数を可視化できます。手作業での在庫数のカウントが不要になることで、人手不足の解消や、人為的ミス削減による業務の効率化を可能にします。
参考サイト:Avery Dennison「ユニクロとAvery DennisonがRFIDを使ってイノベーションを起こす」
Avery Dennison「RFIDビギナーズガイド」
3.OMO(オーエムオー)

近年、店舗在庫をECサイトに反映するシステムや、オンラインで注文した商品を店舗で受け取るモバイルオーダーなど、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの統合)推進による顧客満足度向上への取り組みが大きな注目を浴びています。
無印良品が配信している「MUJIアプリ」は、店舗・オンラインの両方で利用できるOMO戦略を活用したサービスのひとつです。店舗とオンラインでの購入データを統合することで、企業は顧客のニーズをより詳細に把握でき、顧客1人ひとりに合わせた商品情報の案内が可能になります。このように、パーソナライズされた顧客体験の提供は、顧客満足度の向上につながります。
参考サイト:無印良品「MUJIアプリ」
SB Payment Service「OMOとは?成功事例や、O2O・オムニチャネルとの違いを解説」
まとめ
業界全体の人手不足が深刻な課題となっている小売業界では、多くの企業がDX化に取り組んでいます。また、DX化の推進は顧客満足度を向上させ、企業の顧客獲得をサポートします。急速に発展するデジタル社会の中で生き残るためにも、小売業界においてさらなるDX化が求められることは間違いありません。

