農林水産省の「「農業DX構想」と今後のデジタル戦略の推進について」によると、農業DXは、デジタル技術を活用したデータ駆動型の農業経営を通じて、消費者のニーズに基づいた価値を提供する、新たな農業への変革を指します。また、政府統計の総合窓口の「農業構造動態調査」によると、令和4年(2022年)には122万5,500人であった基幹的農業従事者は、令和5年(2023年)に116万3,500人まで減少しました。
地方公共団体などの農業従事者の減少も懸念されており、農業現場だけでなく、行政手続きなどの事務に関しても、DX化の推進が必要です。加えて、進学のために地元を離れた跡継ぎ候補の子どもたちが、卒業後に地元へ戻ってこないケースも存在します。このように、地方を中心とした多くの農家は、経営難と人材不足に陥っており、大きな課題となっています。
そういった状況を打破する有効策として、現在注目されているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)化です。従来から人の手で行っていた作業をシステムに任せることで、経営に必要な人員が少なくなるだけでなく、費用削減や集客効果の上昇など、さまざまなメリットが見込めます。
本記事では、農業でのDX活用をもとに、DX化の重要性と可能性を考えていきます。
農業におけるDX化とは
まずDXとは、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」で以下のように定義づけされています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
デジタル化で業務の効率化や生産性の向上を図り、快適な社会環境へ変革していくことをDXといい、時代にあわせた価値観やシステム、サービスを構築する目的があります。
例えば、予約システムの導入で「農家に関する見学・体験の予約・決済・顧客情報をデジタル化し、一元して管理する」というのはDX化の例の1つで、「催事のスケジューリングや顧客情報管理などの人為的ミスの削減」や「農業スタッフの負担軽減」の実現につなげられます。このような業務の効率化は「サービスクオリティの向上」につながり、顧客損失の防止になります。
このように、農家における経営難や人材不足などの課題解決に、DX化は大きく尽力します。農家に、最新技術のデジタルを組み込むことで、新しい農産業のありかたを考えることが可能です。
農業におけるDX導入事例
ここからは農業のDX導入の例を紹介します。
1.予約システム
予約システムは予約受付→決済→顧客管理→集客まですべて自動化し、データ管理の効率化を可能にします。
「RESERVA(レゼルバ)」は業界屈指の人気を誇るクラウド型予約システムで、導入数は28万社以上、利用業態は350種類以上にのぼります。100種類以上の豊富な機能をそろえている点や、初期設定から利用開始まで最短3分という圧倒的な操作性が高く評価されています。また、はじめての利用やお試しでの利用にうれしいフリープランの展開も特徴的です。
農業イベントや農業体験を家族や友人と一緒にまとめて予約できる団体予約機能や子供料金・大人料金の区分を行える複数料金設定など、農家の運営に特化した機能が多く搭載されています。
また、多言語対応機能では、予約サイト上に日本語、英語、中国語(簡体)、中国語(繁体)、韓国語、タイ語を実用できます。日本語力が十分でない外国人利用者に対しても、予約受付の対応が可能です。
2.水管理システム
水管理システムとは、水田の給水操作を自動管理できるシステムです。デジタル技術の活用により、これまで手作業で行ってきた水田の水管理を省力的かつ効率的にします。
株式会社 笑農和のpaditch(パディッチ)では、水管理の自動化に関する製品を開発しています。その一つであるpaditch gate02+は、スマートフォンやPCを使用して、効果的な水管理を実現するシステムです。
具体的な機能として、スマートフォンのアプリ上から水門の開閉などの各種操作を行えます。これにより、農業スタッフは手作業で行う作業を簡略化でき、業務効率化や生産性の向上に役立てられます。
3.AIを活用した病害虫診断技術
病害虫の診断・防除には、専門の知識が求められるため、新規の農業従事者にとって高いハードルが高い領域です。病害虫診断技術では、人工知能(AI)を活用することで、トマト、イチゴ、ナスなどに付着する病害虫をデータ化することが可能です。
バイエル クロップサイエンス株式会社の「プランテクト」は、AIによる病害予測機能が搭載されています。農家のスタッフは、作物の病害発生データを収集でき、感染リスクを予想できるため、効果的な農業運営につなげています。
農業業界DX化が進む未来
DX化推進には「知識やノウハウが不足している」「設備や環境が整っていない」といった課題が挙げられます。しかし、農業業界はDX化を積極的に取り入れ、より快適な社会や労働環境の実現に向かっています。
政府統計の総合窓口の「令和5年農業構造動態調査結果(令和5年2月1日現在)」によると、令和4年(2022年)時点でデータを活用を取り入れている農業経営体数は22万6,800経営体でしたが、令和5年(2023年)には24万2,300経営体まで増加しました。
このようなAIやIOTなどのデジタル技術を活用した農業DXへの関心は高まりを示しています。DX化により生産性の向上や業務効率化が進むだけでなく、デジタルでしか成しえないサービス提供やさまざまな社会課題の解決が望めます。DX化が進んだ農業業界は、今後もDXの導入で農業スタッフや利用者に向けた快適なサービスを実現していくでしょう。
まとめ
今後の農業業界は、DX化が今以上に進行すると考えられます。DX化による農作業の効率化や省人化は、農業スタッフ・利用者すべての人に快適なシステムの構築を可能にします。利用率向上と労働環境の改善で農業業界の今後に期待がかかります。