アパレル業界のDX|コロナ禍で加速するデジタル化、その現状と企業の生き残り戦略とは

アパレル業界のDX|コロナ禍で加速するデジタル化、その現状と企業の生き残り戦略とは

競争の激しい現代社会において、ビジネスモデルに大きな変革をもたらすとされるのが「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」です。経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」では、DXを以下のように定義づけしています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

2020年からは、新型コロナウイルスの流行によって社会全体のデジタル化が加速し、各業界で一気にDX化へと向かう波がやってきました。これまでの常識が通用しなくなり、多くの企業がビジネスモデルを急激に方向転換させなくてはならなくなったからです。現代のインターネット社会では、どの業界もグローバルなフィールドで勝ち抜く必要があるため、DX化が必要不可欠といっても過言ではありません。
特に新型コロナウイルスの影響を受けたのが、アパレル業界です。店舗の休業や営業時間の短縮、さらにリモートワークやオンライン授業など、巣ごもり生活による需要の減少で大きな打撃を受けました。

そこで本記事では、アパレル業界におけるDXに着目し、その現状と課題、そして国内外における実際の導入事例を紹介し、実態を明らかにしていきます。

アパレル業界のDX化における課題

アパレル業界においても、各企業がDX化に向けてさまざまな取り組みを進めていますが、他の業界と比べると依然として進んでいないとされています。まずは、アパレル業界のDX化が進んでいない理由について解説します。

1.試着できないオンライン販売に限度あり

消費者がアパレル商品を購入する際、いくつかの決め手によって購入を判断します。中でも最も重要視されているのが「試着」です。実店舗で現物を見ても、試着してみると思っていた着用感と異なることがあるため、そもそも現物を見ることのできないオンライン販売は、消費者にとって非常にハードルが高いと言えます。試着ができないと、サイズや形が似合っているかわからず、実際のカラーや素材、質感、重さ、薄さも感じられないため、「思っていた感じと違う」というギャップが生じてしまうのです。そのため最近ではH&MZARAをはじめとし、試着をして合わなければ返却ができるサービスを提供しています。

2.消費者のニーズに対する情報が不足

これまでアパレル業界では、ブランド側がトレンドを生み出し消費者に提供するという販売スタイルが主流でした。しかし近年では、消費者がSNSで積極的に情報を発信するようになったことで、流行の発信源が移り変わり始めています。消費者のニーズに応えた商品の提供が求められるようになったものの、実店舗に依存していた従来の販売スタイルでは、消費者のデータ収集・分析が十分にできていませんでした。その結果、消費者のニーズやデータを把握できていないため、すぐに対応できず、DX化の波に乗り遅れてしまったのです。

アパレル業界がDX化するメリットとデメリット

【メリット】

1.よりユーザーに寄り添った接客と提案が可能

ユーザーの個人情報や購入履歴をデータベース化することで、一人ひとりに合った提案が可能になります。また、身長や体重などのデータを登録することでおすすめのサイズを提案したり、似ている体形のユーザーによる着用画像が見られたりと、オンラインで購入する際のハードルを下げることができます。直接の接客はできなくても、オンラインだからこそのより細やかなサービスが提供できるのです。

2.業務の効率化につながる

商品の補充や在庫管理、採寸情報などを一元管理することで、これまで作業にかかっていた時間が短縮され、効率的に店舗運営を行うことが可能です。また、専用のアプリを利用し、消費者が自分のスマートフォンのカメラで商品のバーコードにかざすと、商品の詳細情報やコーディネートの提案、オンラインサイトでの在庫状況がわかるなど、販売側だけでなくユーザー側の便利な買い物にもつながります。

画像引用元:公式「ジーユー」アプリ

【デメリット】

1.個人情報の取り扱いに注意が必要

DX化を進めるうえで、店舗の機密情報や顧客の個人情報をデータで管理するため、セキュリティ対策を強化する必要があります。ずさんな個人情報の取り扱いをしていると、ブランドや企業の信用が失われ、イメージに大きな影響を及ぼすため、個人情報の取り扱いには十分な注意が必要です。

2.システムの導入に費用がかかる

DX化を進めるためにはシステムの導入が必要不可欠であり、費用がかかります。導入自体のハードルも高く、システムをうまく使いこなせるか不安で抵抗がある企業も少なくありません。効率化するために導入したにもかかわらず、はじめはシステムとの連携に慣れずに寧ろ効率が悪くなってしまう可能性も危惧されます。

アパレル企業によるDXの導入事例

ZOZOTOWN(ゾゾタウン)

アパレル業界DX化の先駆けともいえるZOZOTOWNでは、2017年AIによる3D計測用ボディースーツ「ZOZOSUIT」のサービス提供を開始し、大きな注目を集めました。2020年には「ZOZOSUIT 2」を発表し、同時に、スマートフォンを使い高精度な足の3Dサイズ計測がかんたんにできる「ZOZOMAT」も発表しました。ZOZOSUITは、全体に施されたドットマーカーをスマートフォンのカメラで360度撮影することで、高精度な計測を可能とした採寸用ボディースーツです。さらに、「マルチサイズプラットフォーム」(MSP)と呼ばれる、身長と体重の入力によって自分の体のサイズにあったおすすめの商品を紹介してくれるサービスを提供しています。ZOZOSUITは、開発や生産、無料配布に伴うコストがかさんだことから配布終了となりましたが、計測で得た100万件以上の体型データは、MSPなどのサービスで活用されています。

映像引用元:ZOZO公式ホームページ

ファーストリテイリング

「ユニクロ」や「GU」を運営するファーストリテイリングでは、「RFIDタグ」を導入しています。RFIDタグとは、非接触でその商品にまつわるさまざまな情報が得られる仕組みのことです。 在庫管理はもちろん、電波が届く範囲であれば、高い棚に置かれた商品のタグを脚立無しで読み取ったり、棚卸をまとめて行ったりすることも可能です。また、レジを無人化し、顧客自身で会計を行ってもらうため、店舗スタッフの負担軽減や人件費の削減につながります。

画像引用元:株式会社FIITHホームページ

GUCCI

GUCCIが2020年に開始した「GUCCI LIVE」というサービスは、ECサイト上で買い物をする顧客に対して、店舗にいる店員がモバイルやPCのビデオ通話を通して商品を見せてくれるものです。これまでの販売スタイルを崩さないハイブランドが多い中で、このようにGUCCIが率先してDX化に乗り出し、アパレル業界に大きな影響を与えました。

ファッションショー

デジタルファッションウィーク

2021年春夏シーズンのミラノファッションウィークとパリメンズファッションウィークは、デジタルプラットフォーム上でコレクションやインタビュー、ライブストリーミングを公開した。はウェブサイトのほか、イタリアファッション協会のInstagram、Twitter、Facebook、LinkデジタルファッションウィークedIn、微博(Weibo)、YouTubeでも公開され話題となりました。

画像引用元:朝日新聞DIGITAL「Fashion」

Badgley Mischka(バッジェリーミシュカ)

Badgley Mischka(バッジェリーミシュカ)では、これまで招待客のみだったファッションショーを配信することで、商品の魅力を広く伝えること成功しました。また、ランウェイを歩いているモデルの服に小型の装置を付けることで、視聴者が同時に服の情報を得られる仕組みを整えました。さらに、視聴者は「いいね」ボタンを押して評価ができ、すべてのデータはバックステージのデザイナーにライブで中継され、どの生地をどれだけ発注するか、どれを店頭へ押し出していくかなどの決定に役立てています。限られた招待客のみの閉鎖的なファッションショーが多い中で、視聴者のリアルな声を収集するためにDX化を進めています。

まとめ

アパレル業界では、DX化を進める企業が徐々に増えてきたものの、他の業界と比べるとまだまだ遅れを取っています。しかし、アパレル業界のDX化における最大の課題であった「試着ができない不安」も、IT技術の発展により生まれたデジタル採寸を取り入れることで限りなく解消されつつあります。また、返品に対応する企業も増えたことで、オンラインショッピングに対するハードルが下がってきました。グローバルなデジタル化が進む現代社会において、サービスの向上やコスト削減、さらには業務の効率化が期待できる点で、アパレル業界の早急なDX化が求められます。DX化による新たなビジネスモデルの展開は、競争の激しいアパレル業界を勝ち抜くうえで必要不可欠となるでしょう。