日本が抱える医療課題を徹底解剖、医療現場の未来を担う「デジタルトランスフォーメーション(DX)」

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日本が抱える医療課題を徹底解剖、医療現場の未来を担う「デジタルトランスフォーメーション(DX)」

昨今の新型コロナウイルス感染拡大や、超少子高齢化などの影響を受け、診療所や病院など多くの医療機関で体制の見直しが迫られています。

医療費無料や混合診療解禁、新型コロナウイルス感染拡大による経営状態の悪化や、高齢化が進む都市部への医師の重点的な配置に起因する医療偏在化など、医療課題は多岐にわたり、厚生労働省が示す「オンライン診療実施に関する指針」に基づき様々な整備がなされ始めています。

現状の医療課題を解決し、新たな医療体制を構築するために注目を集めているのが医療「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。医療のデジタル化は、人間とITの分業や、業務の効率化、包括的かつ効果的な医療サービスを実現し、ニューノーマルに対応した医療体制構築に貢献することが期待されます。

今回は、現在日本が抱える医療課題や、医療DXの推進が医療現場にどのような影響を与えるのかについて解説していきます。

医療現場が抱える課題

病院の財源・人材不足

現在、医療現場の経営状態は逼迫しており、公益社団法人全日本病院協会の調査によると多くの病院で経営状態が悪化していることが明らかになりました。生活保護による医療費無料や、混合診療の解禁に伴う医療報酬の減額、新型コロナウイルス感染拡大による自粛要請が病院の財政を圧迫する大きな要因です。

医療従事者不足も深刻な課題です。現在、医療技術が急速に発展し、様々な治療が可能になっている一方で、厚生労働省によると医師や看護師は年々減少傾向にあります。これによる医療従事者の過労や医療事故など、派生的に発生する様々な問題を解消することが重要です。

このように、国民のニーズに応じた医療の提供と、医療機関における財源確保の両立が困難な点が課題として指摘されています。

不十分な地域包括ケアシステム

高齢者の住み慣れた地域での生活を支援するために生まれた「地域包括ケアシステム」。この仕組みを使用して介護、介護予防、生活支援、福祉サービスなど様々な観点から高齢者をサポートするべく厚生労働省は2025年を目途にシステム推進を目指しています。

しかし現時点では、問題点も多く包括的な医療体制が構築できていないのが実情です。

地域包括ケアシステムの課題

・住み慣れた地域での生活が困難
・介護サービス人材不足
・集合住宅の高齢化

地域包括ケアシステムでは、高齢者の日常生活をサポートすることで、住み慣れた地域での自立を促進することが肝ですが、現時点では要介護認定を受けた高齢者は、当人の意思ではなく家族の判断により施設に入居するケースが多いです。要因としては、在宅での24時間介護を成立させるだけのサービスが不十分であることが考えられます。また、団地や公営住宅では同世代が入居している傾向にあり、集合住宅での単身高齢者の割合は増加しています。このような高齢者への在宅生活支援の重要性が高まっていますが、サービスや事業が追い付いていないのが現状です。

偏在化する医療

2008年の1億2808万人をピークに現在は減少傾向にある日本の総人口ですが、65歳以上の高齢者層は、年々増加しています。内閣府によると、高齢者の人口は2015年には3387万人となり、団塊の世代が75歳を迎える2025年には3677万人まで増加すると推測されています。

また、人口の推移を地域別に分析すると、東京や大阪などの大都市で今後さらに高齢化が加速していくと考えられています。それに比べ地方では、2015年頃に高齢化のピークが去り、高齢者の人口が減っている地域もあります。

このような社会情勢を受け、懸念点として挙げられるのが医療の偏在化です。
高齢化が加速の一途を辿る都心では、医療ニーズの高まりに伴い、重点的に医師が配置されると推測されますが、人口が減少する地方で医師不足が嘆かれることは明らかであるといえます。

画像参照元:内閣府

DX化が医療現場にもたらす変化

遠隔医療の普及

かつての遠隔医療は、AI機能を応用した画像診断が関の山でしたが、昨今のスマートフォンユーザーの増加や通信技術の発展、それらを応用した医療技術により、ITテクノロジーを駆使したオンライン遠隔診療が急速に発展していくと考えられます。

さらに近年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、非接触型のサービスに強い期待が寄せられています。ITの進展、国民のニーズの両側面から、よりオンライン診療サービスの開発が加速すると推測されます。遠隔医療が普及することで、患者と医療従事者双方が得られるメリットについて解説します。

移動を伴わない診療の実現

従来の医療では、患者が医療機関へ診察を受けに行くことが一般的でした。しかし、患者の健康状態や年齢によっては、移動が困難であったり、移動することで健康状態が悪化してしまったりすることが課題視されていました。

ITテクノロジーの発展により、自宅と医療機関をオンラインで繋ぐことで、問診や診察が可能になるため、移動を伴わない診療が実現します。

継続的な治療を促進

通院が必要な場合、受付から診察、会計までに一定の時間を要するため、患者のプライベートや仕事の都合上、時間を確保できず継続的な治療を断念せざるを得ないというケースも少なくありませんでした。

遠隔診療が可能になれば、受付から診察までの待ち時間が短縮され、継続して診療を受けるにあたっての、時間的な都合による弊害を軽減することができます。

継続的に治療を行うことで、時間の制約をなくし、病状の変化へ柔軟に対応することが可能になるため、治療効果を高めることにもつながります。

医療現場での生産性向上

ITテクノロジーを医療現場に導入し、業務の分担や事務作業の電子化、情報ネットワークの構築などを促進することで、業務効率が向上します。

ITテクノロジーを使用した業務分担

人間の手のみで管理が及ぶ範囲には限界があるため、医療現場における膨大な業務をすべて人間が担当していると、スタッフに過度な負担がかかり業務のスピードや精度を低下させる懸念があります。

そこで、ITテクノロジーを活用し業務の分担を図ることで、医療従事者の負担を軽減しヒューマンエラーによる生産性の低下を防ぐことにつながります。オンライン予約や会計、現金管理システムがその例です。予約から会計に至るまでの一連の流れや、現金の管理をデジタル化することで、人間が担当する業務量を大幅に軽減します。

情報通信技術(ICT)を使用した情報ネットワークの構築

地域における生産的な医療体制の構築、包括的な医療システムを提供するために一躍買うのが、ICTを活用した情報ネットワークです。ICTとは通信技術を活用した情報伝達の手段であり、これを医療分野で応用することで、薬局や診療所、病院などの医療機関で効率的な患者に関する情報交換が実現します。

従来の医療体制では、初診患者が診察に来た際や、患者を診療所から病院に紹介する際に、口頭あるいは書類ベースでの引継ぎ作業が必要であったため、情報の互換性が不十分であるという点が課題視されていました。

従来の医療課題を解決し、医療現場における生産性を向上させるために、情報ネットワークを発展させることで、各医療機関、地域間の連帯を促進し包括的な医療体制の構築が可能になります。これにより、投薬や検査などの治療工程の重複をなくし、患者の健康状態に適した質の高い医療を提供できます。

その他業務のデジタル化

医療DXが推進することで、今まで人間の手によってアナログな手法で実施されていた業務のデジタル化が可能です。

デジタル化する業務

1.カルテの記入
2.患者の保険資格の確認
3.WEB予約システム

従来の紙ベースのカルテをデジタル化することで、患者の診療情報をより正確に管理できるようになるほか、データ管理におけるセキュリティ面の強化にも役立ちます。

マイナンバーカードのICチップや健康保険証の記号番号を使用することで、患者の医療保険の資格有無を確認する「オンライン資格確認」が実現します。資格確認のデジタル化により、患者が保険診療を受診可能か否か瞬時に確認可能になるため、資格過誤によるレセプト返戻の解消、窓口業務の軽減につながります。

スマートフォンを使用し、予約から会計までの一連の作業をオンライン化することで受付予約数や、予約枠を予約システムから即座に把握することができるようになるので、患者は従来よりもかんたんに医療機関を受診することが可能になります。

画像参照元:厚生労働省

医療DXの事例

本項では、様々な医療機関でどのようにしてDXを取り入れているのか、取り組み内容や背景を紹介します。

検出根拠の説明が可能な心電図解析AI

心電図検査において、AI の表現能力を応用し、不正脈の検出および検出根拠を説明する機能が開発されました。従来のコンピューターの自動学習機能を活用したAI診断は、診断結果を提示することはできましたが、AIがなぜその結果を表示したのか、その検出根拠が不明確でした。

検出根拠を提示できないブラックボックス性を課題視したカルディオインテリジェンスの研究チームが、課題を克服し医療現場におけるAIの精度を向上をさせ、医療DX推進に寄与するために心電図解析AIの開発に着手しました。

テレビを使ったオンライン診療サービスの開発

家庭のテレビなどを使用し、オンラインで診療が受けられる遠隔医療サービスが開発されました。テレビに専用のチューナーを差し込むことで、医療機関が提供するオンライン診療サービスと連帯し、テレビ画面上で診察予約や問診、診察を受けることができます。

現在日本では超高齢化社会の影響を受け、慢性的な疾患を患う患者の増加や、医療精度の地域格差など様々な医療課題が浮き彫りになっています。
そのような背景があり、医療における地域格差を解消するための手段として在宅医療を可能にするオンラインツールに期待が集まっています。

しかし、オンライン診療の利用者は8割以上が40歳以下であり、医療機関を受診する高齢者の大半が遠隔・在宅医療への弊害を感じていることが現状です。そこで、各年齢層でのスマートフォン普及率やITテクノロジーにおける知見格差によるオンライン診療普及への弊害を克服するために、多くの家庭で使用されるテレビにフォーカスを当てた開発が進められました。

画像参照元:Medial DX

医療DXの今後

ITテクノロジーの急速な発展と共に、今後医療DXは加速度的に推進し、AIが医療に介入可能な領域が拡大していくと考えられます。AIと人間が共に手を取りあうことで、医療の精度は各段に向上していくことが期待されます。

現在、様々な医療機関でAI 導入が進んでいます。AIは、医薬品やワクチンの開発にも貢献します。人間の手による医療データの蓄積や分析には、質量ともに限界がありますが、進化したAIの学習機能であれば、より高次元でのデータ解析が可能です。

AIが医療データポイントから取得した何十億にも上る情報を精査することで、医薬品生産工程での精度向上に貢献し、より品質の優れた医薬品の開発が期待されています。

また、医療DXが促進することで、病気を未然に防ぐ高度な医療技術の開発が期待されます。AI による高度な人口知能を活用し、利用者の健康診断の情報を解析し、将来的な健康状態の変化を推測することが可能になるからです。

これにより、蓄積された健康診断結果をもとに、現状の生活実態から将来的な健康状態を数値的にシミレーションし、現状の課題を逆算・抽出することで、予防策を提案することが可能になります。

まとめ

今回は、医療の現状や、医療DXが推進することで医療現場にどのような影響をもたらすのについて、ITテクノロジーの発展、医療DX導入事例、人口推移など様々なデータをもとに解説しました。現時点でITの知見や技術を導入している医療機関もあり、従来の医療課題を克服するだけでなく、今後の医療DX発展に大きく貢献することが考えられます。

さらに医療DXが推進することで、より効果的な医薬品の開発や、高度な医療技術の確立が期待されます。超少子高齢化や、医師の偏在化による医療の地域格差など、現在日本が抱える医療課題を克服し、国民の健康増進を図るには医療DXが必須であるといえるのではないでしょうか。

参考文献
DX塾・医療 2030年の医療を予測する3つのキーワードhttps://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/technology/dx/20210331/

Medical DX 早期発見から予防まで、医療検査にAIがもたらすものhttps://medicaldx-jp.com/prevention/19

カルディオインテリジェンス公式サイト
https://www.cardio-i.com/