近年、フードテックという新しい観点が出現し注目度が上昇しています。
フードテック(FoodTech)とは、「Food(食)」と「Technology(科学技術)」を組み合わせた造語で、最先端のデジタル技術を活用して、食の可能性を広げていくことであり今の日本の成長産業としても期待が高まっています。詳しくは、フードテックとは|基礎から学ぶ概要解説をご覧ください。
近年、世界規模で食肉文化に暗い影が差しています。その理由は、発展途上国の経済成長と脱炭素問題による食糧危機です。
社会のIT化が急速に進んだことで、途上国の経済成長が目覚ましく、各国の生活水準が急激に上昇してきました。生活水準が上昇すると肉を食べる人が増えるというのは世界共通の現象であり、近い将来、食肉が不足すると考えられています。
しかし、世界で食肉を増産するために必要となる穀類生産を大きく拡大できるような農地は残っておらず、肉の増産が難しいとされています。加えて、牛から出るげっぷの中には、温室効果ガスが大量に含まれており、地球温暖化の原因の一端です。
持続可能な社会を考える上で、従来の食肉生産におけるプロセスの変革を求められています。予想される食糧不足や栄養不足を鑑み、最新のテクノロジーを活用し作り出された未来の食材「人工肉」がその問題の対応策となるのではと期待されています。
本記事では、その未来の食材「人工肉」について詳しく解説します。
人工肉とは
人工肉とは、その名の通り人工的に作られる肉製品で、大別すると2種類あります。
1つ目は、植物肉や代替肉と呼ばれる植物由来の素材で作った肉です。2つ目は、培養肉と呼ばれる動物の肉を人工的に培養した肉です。1960年代から研究が始まり、近年のバイオテクノロジーと最先端科学技術が融合した「Meat Tech」の登場によって開発が進んでいます。
代替肉
代替肉とは
代替肉とは、植物由来の素材で作った肉を指し、ヴィーガンやベジタリアンなど菜食主義も食べることができる肉として注目されています。
培養肉とは異なり、既存のバイオテクノロジーを応用して開発可能な食肉であることから、技術的ハードルが低いです。人工食肉市場の多くを占めており、一般的な小売店でも商品化された代替肉が陳列しています。
代替肉の作り方
代替肉は、主な原料として大豆を利用しています。その他にも小麦やエンドウマメ、ソラマメを利用したものがあります。それらの原料から植物性タンパク質を抽出し、繊維状に加工することで肉のような食感を生み出します。そして、ミンチ肉タイプやブロック肉タイプ、手羽先タイプやフィレタイプなど、様々な料理によって使い分け可能な形に成型し食卓へ届けられます。
販売されている代替肉商品
マルコメ「大豆のお肉」
「大豆のお肉」は、マルコメが発売する大豆の油分を搾油、加圧・加熱・乾燥させてできた、肉の代用品として使える植物性の人工肉です。植物由来のため代替肉に分類されます。お湯で戻す必要がないレトルトや冷凍、乾燥タイプなど豊富な種類があります。一般的なスーパーでもよく見かけるメジャーな商品です。
日本ハム「Natu Meat(ナチュミート)」
「Natu Meat」は日本ハムが発売する、大豆やこんにゃくを使用した加工肉商品です。ハムタイプやソーセージタイプなど食べやすい形やキーマカレーなどレトルト食品に加工されていることから、違和感なく代替え肉を取り入れることができる商品です。
培養肉
培養肉とは
培養肉とは、動物由来の細胞を培養し、育った細胞を加工して作った人工肉を指します。家畜をと殺せずとも動物由来の肉を作り出せることから「クリーンミート」とも呼ばれています。
皮膚や筋肉、神経をもつ生命体の再生を目的とした技術を利用し作られるため、技術的ハードルが高いとされています。そのため、現在までに培養肉として完成されているのはミンチ肉タイプのみで、ステーキサイズのブロック肉タイプ完成は試作段階でとどまっています。
培養肉の作り方
培養肉は、主な原料として牛の幹細胞を利用します。
幹細胞は自分と同じ細胞を分裂して増やす能力と、別の細胞に分化する能力を持っています。それによって、1つの幹細胞から約1兆個の筋肉や内臓器官の細胞を作り出すことが可能です。培養肉はこの能力を利用して作られています。
作り方としては、牛から取り出した幹細胞から筋細胞を取り出し、アミノ酸や炭水化物など必要な物質が入った培養液で育てます。そして、筋細胞が30mm程度の筋管になるまで形成待ち、育った筋管をゲルで作られたリングの上に置きます。そのリング上で形成される筋肉組織を重ね合わせることで、培養肉を作り出し食卓へ届けられます。
販売されている培養肉の商品
Mosa Meat(モサミート)「Mosa Meat ハンバーガー」
Mosa Meatは、世界で初めて培養肉のハンバーガーパティを開発したオランダのスタートアップ企業です。牛の幹細胞を利用して肉を培養しているため、培養肉に分類されます。同社は、2013年に1個3500万円のハンバーガーを発売したことで知られています。また、アメリカの俳優レオナルド・ディカプリオ氏が出資し、知名度が上昇しています。現在、新たな技術によって大幅なコストダウンに成功し商品導入に向けた準備を行っています。
Eat Just(イージャスト)「チキンナゲット」
アメリカを拠点として植物性卵を開発するEat JustがGOOD Meatブランドでとして発売した鳥培養肉使用のチキンナゲットです。シンガポールで販売許可を取得し、レストランで短期的に販売されました。加えて、食品宅配を行うfoodpandaと提携し、世界初となる培養肉の宅配サービスを期間限定で行いました。
本項で紹介したMosa Meatのハンバーガー、Eat Justのチキンナゲットを含め培養肉は、現時点で日本国内での販売が行われていません。しかし、近い将来、日本の食卓に並ぶ日が来ることでしょう。
人工肉の将来性
本記事冒頭で述べた食肉問題に対応する有効な手立ての1つとして、人工肉が挙げられています。市場調査やマーケティング業務を行う矢野経済研究所の代替肉市場調査では、世界人口肉市場が2020年の2570億円規模から、10年で約7倍の約1兆9000億円まで成長されると予想されています。
加えて、農林水産省フードテック研究会の中間レポートでは、植物由来の代替肉について「新しい食品の共通する制度として、日本でも独自の植物肉の認証制度を整備すべき」との意見が出ています。また、培養肉について「細胞の組織製造技術に関する知的財産権の管理や有効活用も含め戦略的に考え、培養肉を原材料として加工する技術についても、消費者が求める商品の製造に向けた企業間の連携も含め、仕組みを検討する必要がある」との意見があり、将来の食肉に変革をもたらすと大きく期待が高まっています。
まとめ
今回は、未来の食材人工肉とはなにか、そして人工肉の作り方や商品、取り組みをご紹介しました。
人工肉は、これからの技術革新によってさらなる発展が予想されています。現在は導入コストや手間がかかり流通が少ないですが、鳥や豚、牛の肉に代わって食卓に並ぶ食材になる日が来るかもしれません。持続可能な社会の実現策として、進展が気になるトピックスです。