世界的なコンサルティングファームであるPwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、世界の音楽市場は2018年から2027年まで年平均成長率4%で成長すると予測しています。さらに、経済産業省の「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書 データ集」によると、2018年に504億ドルだった世界の音楽市場は、2022年には613億ドルにまで成長しました。これらの調査から、世界の音楽市場規模は年々拡大していることが読み取れます。また、その一因として考えられるのがストリーミングサービス事業の規模拡大です。世界の音楽市場の大部分を占めるストリーミングサービスの課金による売上割合は、2018年の21%から、2022年には35%に増加しています。
一方で、現在売り上げが減少傾向にあるのが、CD、DVDを含むフィジカルディスクです。「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書 データ集」によると、世界の音楽市場におけるフィジカルディスクの売上割合は、2018年の13%から、2022年には10%に減少しています。
現在の世界の音楽業界では、特定の楽曲を聴ける商品やデータではなく、定額を支払い楽曲を制限なく聴けるサービスが人々に好まれる傾向にあるため、インターネットを経由し動画や音楽を配信するストリーミングサービスなどが主流となっています。
販売形態が大きく変化する音楽業界で、近年注目されているのが「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」です。経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」では、DXを以下のように定義づけしています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
今後さらに市場が拡大すると予想される音楽業界でDX化が進むことにより、顧客ニーズや市場の動きに敏感に対応できるようになり、新しいビジネスチャンスを獲得できる可能性があります。
そこで本記事では、音楽業界におけるDXに着目し、その課題やメリット、デメリット、そして国内における実際の導入事例を紹介し、実態を明らかにしていきます。
音楽業界のDX化における課題
音楽業界は、DX化が遅れていると指摘されています。その原因として、つい最近までCDやDVD、レコードなどのパッケージ商品が主流だったことや、観客の前で生演奏するライブ形態が変化しにくいことが考えられます。以下の項目で、具体的に音楽業界のDX化が進んでいない理由について解説します。
1.システム導入時の費用
音楽業界のDX化を図る際、費用面の負担が大きいことがデメリットのひとつです。ライブで電子チケットを導入する際は、インターネットを利用するにあたって高速ネットワーク環境の構築が必要になります。また、利用者にとっても、音楽配信サービスで音楽を聴く際は、安定した通信環境でなければ楽曲が再生できません。そのような環境がない場合は、インターネットの利用範囲が制限されたり、通信費が高額になったりするケースもあります。
2.セキュリティ対策
DX化を進めるうえで、契約書や顧客の個人情報をデータで管理するため、セキュリティ対策を強化する必要があります。特に音楽業界は、サブスクリプションの契約時やオンラインライブの開催時に顧客の個人情報を取り扱うため、厳重な管理体制が求められます。ずさんな管理では、企業に対しての不信感が募り、信用を失ってしまう可能性もあります。企業を守るためにも、個人情報の取り扱いには十分な注意が必須です。
音楽業界がDX化するメリットとデメリット
メリット
1.コンテンツの広範囲な普及
現在の音楽業界では、ストリーミングサービスが主流となっています。音楽配信サービスを登録することにより、商品を購入することなくデータを受信しながら音楽の再生が可能です。CDやデータダウンロードなどのパッケージ商品が主流だった以前に比べて、さまざまな楽曲にアクセスしやすい環境となっています。
多くの人が無料でアクセスできるサービスの増加により、楽曲が人目に触れられる機会が増えたこともメリットのひとつです。具体的には、You Tubeなどの動画配信サービスの普及により、VOCALOID(ボーカロイド)などを利用した自作の楽曲をネット上に公開し、メジャーデビューするケースなどが挙げられます。
VOCALOIDとは
ヤマハが開発した歌声合成技術及びそのソフトウェアです。歌詞とメロディを入力するだけで、コンピューターやスマートフォン上で歌声を作り出すことができ、顔や素性を明かさず一人で楽曲の製作ができます。
参考ページ:ヤマハ「ボカロとはなにか?いまさら聞けない、ボーカロイドの基礎知識」
2.顧客満足度の向上
音楽サブスクリプションサービスには、おすすめ機能が搭載されているものがあります。Spotify(スポティファイ)では、ユーザーが提供した情報(位置情報、言語、年齢、フォロー中のユーザーなど)に基づいて、関心のあるトピックやアーティストを提案します。各ユーザーに関連性の高い楽曲を提案するため、ユーザーは新たな体験が可能です。
参考ページ:Spotify安全性&プライバシーセンター「Spotifyのおすすめ機能について」
3.人件費の削減
さまざまなデジタル技術を活用することで、人件費の大幅な削減が見込めます。たとえば音楽教室では、予約システムを導入することで、スタッフの授業手配業務の削減が可能です。また、スマートロックを導入することで無人で音楽教室を運営でき、教室にスタッフを常駐させる必要がなくなります。
デメリット
1.IT人材の不足
予約システムや電子チケットなどの新しいツールを導入した際は、従業員がそのツールを使いこなす必要があります。そのため、研修の実施、システムのマニュアル作成などが重要です。効果的な研修を行い、継続的に従業員を育成することによって、音楽業界のDX化が進展していきます。しかし、これらを取り組む際には多大な時間・費用がかかる傾向があります。
2.パッケージ商品の衰退
音楽市場においてパッケージ商品が衰退したことにより、CD、DVD、レコードなどを取り扱うCDショップの店舗数が減少しています。また、CDを購入する機会がなくなることで、CDに保存されている音楽を聴く機会が減少するというデメリットも存在します。
3.アーティストの収入減少
現在の音楽業界の主流であるストリーミングサービスは、アーティストの収入が僅かなものになってしまうデメリットがあります。CD購入が主流だった頃の、一枚の売り上げから得られる収入に比べると、ストリーミングサービスでの収入は微々たるものです。
音楽業界におけるDX導入事例
ここからは音楽業界のDX導入の例を紹介します。
1.予約システム
予約システムは予約受付→決済→顧客管理→集客まですべて自動化し、データ管理の効率化を可能にします。
「RESERVA(レゼルバ)」は導入数30万社を超える、業界トップシェアのクラウド型予約システムです。利用業態は350種類以上にのぼり、最短3分でサイトを作成できるシンプルな操作性が高く評価されています。無料のフリープランから利用でき、初めて予約システムを導入する方にもおすすめです。
音楽スタジオにおすすめの機能として、「レゼルバペイメント」という独自のクレジット決済方法が挙げられます。予約者は事前に支払いを完了できるため、予約当日はサービスを受けるのみとなります。サービス提供側も会計が不要になるため、予約管理者側・顧客側ともに、支払いにかかる手間が軽減されます。
参考サイト:RESERVA公式サイト「音楽スタジオのための予約システム」
2.オンラインライブ
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、ライブ開催が困難な際に注目されたのがオンラインライブです。パソコンやスマートフォンなどを使って視聴するため物理的な距離や場所の制約がなく、世界中の人々が参加できるというメリットがあります。コロナ禍における新しい体験として急速に普及し、現在でも人気を集めています。
参考ページ:ローチケ LIVE STREAMING「チケット情報・販売・予約」
3.電子チケットの導入
ライブを開催する際に、従来の紙のチケットではなく電子チケットを導入しているケースが増えています。スマートフォンにチケットのデータが直接届くため、チケットの申込みから、支払い、受取り、入場までをスマートフォンのみで行うことが可能です。また、スタッフが紙を印刷する時間、費用などが削減されるため、業務の効率化につながります。
参考ページ:LivePocket-Ticket「電子チケット予約・購入・イベント検索」
まとめ
今後の音楽業界はますます活発化していくことが予想されます。ストリーミングサービスやオンラインライブなどのDX化を進めることで、音楽をより人々の身近な物として提供することができます。市場規模の拡大が予想される音楽業界をさらに発展させるためには、DX化が欠かせません。