不動産業界DX化|抱える課題と推進の方法とは

不動産業界DX化|抱える課題と推進の方法とは

グローバル化が進む中、企業における競争力の強化は必須であり、DX化の推進の遅れは大きな損失を生むと予測されています。企業努力だけでなく、国としての施策も必要であり、経済産業省では「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を発表し、以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

2020年からは、新型コロナウイルスの感染症拡大の影響で各業界のDX化が急速に進みました。テレワークやオンラインイベントなどの新しい形態が広がり、多くの企業がビジネスモデルを方向転換せざるを得ませんでした。競争社会で生き残っていくためにも、DX化は必要不可欠です。

これは、不動産業界も例外ではありません。コロナ禍でマイホームを志向する巣ごもり需要やリモートワークのためのもう1部屋需要で、不動産業界は「コロナ特需」となりました。一方で、社員が出社せずに自宅で仕事をする在宅勤務が増えてきたため、オフィス不動産の需要は落ち込むなど、目まぐるしく変化しています。

そこで本記事では、不動産業界のDX化に着目し、その現状と課題、そして実際の導入事例を紹介します。

不動産業界のDX化における課題

不動産業界は、他の業種と比べてみてもDX化が遅れています。総務省が実施した「令和3年版我が国におけるデジタル化の取り組み状況」では、DXを「実施していない、今後は実施を検討」と「実施していない、今後も予定なし」を回答した合計は76.8%となっています。どうしてここまでDX化が推進されていないのか、理由について解説します。

1.アナログな商習慣

不動産業界では対面営業を基本としており、数ある業種のなかでも業界特有の商習慣があります。顧客と業者のやり取りは電話が使われ、1日に何十件もの電話対応を行うことも少なくありません。また、契約書や物件の図面、重要事項説明書など紙ベースのやり取りが基本的であり、大量の書類への署名や捺印が求められます。顧客は書類を書くためだけに不動産会社に訪れることがあり、煩わしいと思う人も多いです。

2.オンライン内見に限界

オンライン内見とは、不動産会社のスタッフが賃貸物件に行き、ビデオ通話などのオンラインを使って映像や音声で物件内の紹介をするサービスのことです。顧客はわざわざ現地に赴かなくていいため、時間がない人や遠方の人なども物件を見学できます。しかし、実際に目で見てないため、騒音や部屋のにおいなど個人の感覚にゆだねられる部分はわかりません。一生を左右する高額な買い物であるだけに、実際に見学しないで購入に至るのは不安に思う顧客もいます。

不動産業界がDX化するメリットとデメリット

不動産業界ではDX化に伴う課題があるがゆえに、DX化の推進が遅れていました。しかし、不動産業務の一部分でもDX化を検討することによって得られるメリットもあります。不動産業界がDX化した場合のメリット、そしてデメリットを述べていきます。

メリット

1.ペーパーレス化を実現

家を売買する際には多くの書類が必要となります。ひとつの契約に対して何十枚もの紙をつかうのは、ペーパーレス化がうたわれている昨今では非効率的です。また顧客情報を紙で扱っていると、持ち出されてしまう可能性や膨大な量の資料から該当の情報を探し出す必要があります。電子契約や個人情報をデータベース化することで、ペーパーレス化を実現でき効率の良い対応が可能です。

2.社員のワークライフバランスを豊かに

不動産業界は、顧客に合わせて営業しているため、休日や祝日は休めない場合や、契約を取るために真夜中に出勤しなくてはならないというケースが少なくありません。しかしDX化が進めば、非対面で接客が可能になり、社員のワークライフバランスが尊重されます。テレワークが推進されれば人材不足解消につながり、また出張費や交通費を削減できるので、企業側にとっても大きなメリットです。

3.社会問題の解決

少子高齢化に伴い、空き地や空き家の増加が社会問題のひとつとなっています。自宅を所有する高齢者が老人ホームや子ども宅に転居し、土地や建物の管理に悩みながらも遠方であるがゆえに手続きが滞っている場合などがあります。DX化することで、遠隔地でも土地や建物の管理が可能になれば、空き地・空き家問題の解決につながるかもしれません。

デメリット

1.個人情報の取り扱いに注意が必要

DX化を進めるうえで、契約書や顧客の個人情報をデータで管理するため、セキュリティ対策を強化する必要があります。特に不動産業界は、ほかの業種よりも多くの重要な個人情報を取り扱っています。ずさんな管理では、企業に対しての不信感は募り、信用を失ってしまう可能性もあります。企業を守るためにも、個人情報の取り扱いには十分な注意が必要です。

2.システム導入にかかる時間・費用

DX化をうまく進めるためには、システム導入が必要不可欠です。システム自体の導入に高いハードルを感じたり、たくさんのツールから選出するのにも時間がかかります。せっかく導入したのに、うまく使いこなせず時間と費用だけかかってしまったという場合も想定できます。

3.現場のITスキル・知識の不足

不動産業界の営業は、長年DX化が進まなかったため、ほかの業界と比べた際に、圧倒的にIT知識が不足している社員が多いです。テレワークを推進するためにも、社員同士の情報共有においてチャットツールやオンライン会議を使いこなし、勤怠管理システムで登録するなど、最低限のシステムを使いこなす必要があります。

不動産業界によるDX化事例

不動産企業

三井ホーム

三井ホームでは、2018年に策定した長期経営方針「VISION2025」の中で、「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」と掲げています。2022年にサービスを開始したSelect Order(セレクトオーダー)は、サイト上で間取り、設備・内装カラーを選択できるようにしました。これにより接客を受けずとも自由にカスタマイズが可能になり、顧客も自身のペースで物件を吟味できます。また、VRでモデルハウスを体験し、メタバース空間で社員とリアルタイムのコミュニケーションができます。これによって、社員が業務を効率的に行えるのに加えて住宅展示場に係る出店コストを削減できるので、その分を建物価格に反映しています。顧客にとって現地に行かずともオンライン上で詳細にイメージを明確化でき、三井ホームにとっては顧客反応分析による商品の魅力強化につながりました。

野村不動産

野村不動産では、新築分譲マンション・一戸建て事業において、不動産売買契約時に必要な契約書類や捺印等の手続きを電子化するMusubell(ムスベル)を導入したことで、大量にあった書類はシステム上で管理され、複数書類への署名や郵送手続きなどは不要となりました。顧客の契約手続きにかかる負担の軽減や時間短縮、契約業務の効率化につながりました。

長谷工コーポレーション

長谷工コーポレーションは業界内でいちはやくDX化を推進してきた企業のひとつです。コンピューター上で3次元化した建物モデルを構築する「BIM」を導入し、形状や空間構成に加え、部材の数量や材質などのデータをもとに、設計・施工・管理までの建築サイクルを把握できます。品質・生産性の向上や円滑に事業を進められることから、大幅な時間短縮と無駄なコスト削減につながりました。

不動産関連サービス提供企業

本項では、不動産会社にDX化を推進するため、自社でサービスを開発して不動産会社にそのサービスを提供している不動産関連サービス提供会社に着目します。

アットホーム

アットホームが手掛ける消費者向け不動産情報の提供や不動産会社の情報流通サービス「ATBB(アトビ)」により、アットホームの加盟店舗は物件情報の登録・入手・公開・管理をはじめとした不動産業務をインターネット上でフルにサポートを受けられます。リアルタイムに物件の登録・公開が可能になり、円滑に空き室物件をアピールすることができるようになりました。

GA technologies(ジーエーテクノロジーズ)

経済産業省東京証券取引所が実施する「DX調査2022」においてDX銘柄に認定された企業が、GA technologiesです。2020年度から3年連続で選ばれており、不動産業界のDX化推進という分野ではトップを走っている企業のひとつです。GA technologiesは中古不動産に特化した流通プラットフォーム「Renosy(リノシー)」を開発しました。これにより、Web上で物件の検索から購入、売買、管理までワンストップで提供します。特に、金融機関の作業時間が75%削減され、スピーディーな審査で顧客満足度の向上につながっています。

画像引用元:GA technologies「Renosy」

Housmart(ハウスマート)

不動産DXを進める株式会社Housmartは、不動産仲介会社向け営業支援ツール「プロポクラウド」を提供しています。プロポクラウドは、営業担当者に代わって顧客の希望条件に合う最新の物件情報や売却に関するコンテンツを自動でメール送信し、追客をすることでフォローできていない顧客を取り込ぼさないようにします。追客業務の80%を削減でき、業務を効率的に行えます。

画像引用元:Housmart「PropoCloud」

まとめ

他の業界と比べてDX化の後れを取っている不動産業界ですが、確実にその波はきています。契約書の電子化やVRを使った内見などITを駆使した営業が主流になります。激しい競争社会で生き残るためにも、不動産業界のDX化推進は必要不可欠です。