先日、「DX銘柄2021」が厚生労働省より発表されました。
厚生労働省は例年、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する目的で、上場企業の中から「企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れた実績が表れている企業」を選定し、「DX銘柄」として公表する取り組みを行っています。
今回はそんな「DX銘柄」の中でも、特に交通インフラ・物流業界に着目します。
昨今、テクノロジーの爆発的進歩に呼応するようにDXの必要性が叫ばれており、各業界の第一線でしのぎを削る上場企業にとって、DXへの対応は急務と言えるでしょう。
しかし、交通インフラや物流には、決してデジタル化することのできない「ヒト」「モノ」、あるいは「距離」や「時間」が密接にかかわってきます。そうしたなかで、何をデジタル化し、どうDXに繋げていくのかという課題に対して果敢に取り組む、交通インフラ・物流業界の企業の先進的な試みを紹介していきます。
DX銘柄構成企業の取り組み
東日本旅客鉄道(JR東日本)
言わずと知れた日本最大の鉄道会社、JR東日本は「DX銘柄」が策定された2015年から、全年度において構成銘柄として選出されています。
同社の取り組みの特徴は、JR東日本として確立している知名度、鉄道、エキナカ資源、物販サービスといった莫大なリソースを、DXでフル活用しようと試みているところにあります。
経営ビジョン「変革 2027」
同社が2018年に公表したグループ経営ビジョン「変革 2027」では、従来の価値観であった「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から、「ヒト(すべての人)の生活における「豊かさ」を起点とした新たな価値創造」へと転換。さらにJR東日本グループの強みを生かして、技術革新や移動・購入・決済のデータ融合による、新たな価値の創造を目指しているとしています。
つまり、JR東日本グループは、これまでは鉄道やその他サービスの顧客に対してのみ貢献してきたのに対し、これからはその莫大なリソースと最先端のテクノロジーを生かして、すべての人々に対して貢献できるような価値を生み出していくことを目指す、ということです。
コロナ禍における取り組み
昨今のコロナ禍の中でも、JR東日本はデジタル技術を活用した取り組みを進めています。
顧客が列車や駅を安心して利用できるよう、2020年7月から同社はスマートフォン用アプリケーション「JR 東日本アプリ」で、首都圏各線区の列車毎の混雑状況や、山手線内27駅の混雑予測情報を提供しています。
また、接触機会低減や駅設備消毒作業効率化を目指し、各種ロボットの実証実験を高輪ゲートウェイ駅で開始するといった試みも行っています。
引用:JR東日本公式サイトより
SGホールディングス
SGホールディングス株式会社は、佐川急便擁する完全持株会社です。
トラックで荷物を運ぶさわやかな配達員、といったイメージの強い同社ですが、その見慣れた光景は、実は基盤にある超ハイテクなシステムによって支えられています。
シームレスECプラットフォーム
SGホールディングスは、2020年1月に次世代型の物流センター「Xフロンティア」を開設。先進的な物流ロボティクスを導入し、設備やスペースを従量課金制で利用できる「シームレスECプラットフォーム」の提供を開始しました。自動棚搬送ロボットを始めとしたAGV(Automated Guided Vehicle)や自動梱包機などの導入により、同規模の施設に比べ約50%の省人化を実現。小規模の物流業務に初期投資やスペース使用料などの固定費をかけることなく、大手通販事業者と同等の作業品質で通販ビジネスを展開することを可能にしています。
AIの活用で再配達を削減する試み
産学連携の研究により、電力データを用いて荷受人の在不在をAIに判断させることで不在配達を回避、再配達を削減するという革新的な取り組みについての検討を2019年から開始し、2020年秋頃から実際の配送現場において実証実験を行っています。この取り組みは、国土交通省が提唱する「総合物流施策推進プログラム」において設定した、宅配便の再配達率の削減目標の達成、再配達におけるCO2削減やドライバー不足の解消などに大きな効果が期待されています。
引用:SGホールディングス公式サイトより
日本郵船
日本最大の海運会社・日本郵船は、現在、数々の世界初となる試みを行っていることで注目されています。
同社のアグレッシブな体制には、学ぶべきところが多いのではないでしょうか。
【世界初】有人自律運航の実証実験に成功
2019年、同社は「有人自律運航船」実現に向けた安全運航・労働負荷削減のための自動運航技術の実証実験に成功しました。この実証実験は、国際海事機関(IMO)が定めた「自動運航船の実証試験を行うための暫定指針」に基づく各種項目をクリアし、国際ルールに基づく世界初の実証実験となりました。
同社は今後も、「有人自律運航船」の実現に向けて、高度な運航支援技術の技術開発や実証試験を推進するとしています。
【世界初】洋上で電子通貨が流通
2020年、同社とTransnational Diversified Groupが共同で運用する船員向け電子通貨プラットフォーム「MarCoPay」を通じて、世界で初めて洋上で電子通貨が流通しました。
この取り組みは、統一通貨が存在しないことなどから、陸上に比べ多くの不自由を強いられている船員のより豊かな暮らしの実現を目指すものであり、今後は自社運航フリート、他船主・管理会社向けに導入を拡大し、決済・送金業務の効率化を通じて船上のキャッシュレス化の実現を目指しています。
引用:日本郵船公式サイト
DX注目企業の取り組み
ここまで、DX銘柄に選定された企業の取り組みを紹介してきました。
例年、厚生労働省はDX銘柄構成企業のほか、銘柄に選定するには至らなかったものの突出した取り組みを行っている企業を「DX注目企業」として選定、公表しています。
ここで、「DX注目企業」に選定されている全日本空輸の事例も紹介したいと思います。
全日本空輸(ANA)
国内線シェア第2位、国際線で第1位の航空会社、ANAは、その持ち前のリソースを生かした意欲的な施策が評価されています。
5Gへの取り組み
ANAは実務訓練を実施するANAグループの総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」に日本の航空業界として初めてローカル5Gを導入しました。導入に当たっては、信頼性の高いネットワークインフラをグローバルに提供してきたNECが5Gネットワーク機器を提供することで品質の高い環境を構築しています。
「ANA Blue Base」は、3万m2以上の敷地面積と世界最先端の訓練設備を有する日本最大級・最新鋭の訓練施設であり、経営の基盤である安全をはじめ、オペレーション品質の向上、イノベーション推進、働き方改革およびANAブランドの発信を行う人財育成の拠点です。この施設に「高速大容量・低遅延・多接続」の特徴をもつ5Gを導入し、訓練のパーソナライズ化によるオペレーション品質の向上並びにパートナー企業との共創による新たなサービスの開発を目指します。
MaaSの推進
ANAは2019年、企画室内に専門部署「MaaS推進部」を立ち上げ、本格的な取り組みを開始しました。2020年に開始したANA独自の経路検索サービス「ANA空港アクセスナビ」で、ANA便を利用する旅行者の出発地から最終目的地までの移動すべてを、シームレスに繋げようとしています。
このような取り組みの背景には、顧客の自由に不安なく移動したいというニーズを満たすこと、また、MaaS運用によって人々の移動全体を可視化し、新たな価値創造につなげていきたいという思いがあります。
まとめ
今回は「DX銘柄2021」と「DX注目企業2021」に選定されたインフラ・物流業界の企業についてご紹介しました。
アフターコロナに向けて多くの企業がDXに向けた取り組みを行っている中で、これらの企業の取り組みは1つの指標になるかもしれません。
【参考情報】
経済産業省:「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を選定しました!
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210607003/20210607003.html
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