厚生労働省の「我が国の人口について」によると、日本は、団塊の世代が75歳以上になる2025年に総人口の18%が75歳以上となり、2040年には約40%が65歳以上になる見込みです。さらに、総人口が9,000万人を割り込むとされている2070年の高齢化率は、2025年現在の約30%から39%へと上昇し、約4人に1人は高齢者という状況に陥ります。
今後は医療を必要とする人が増加する一方、各地で医療業界の人手不足が深刻化していくため、その課題解決が急務です。そこで糸口となるのが、「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」です。DXとは、経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」によると、以下のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
医療業界は、急速に進行する高齢化問題に対応するため、業務の効率化や現場スタッフの負担軽減、そして患者へ対してより質の高い医療サービスを提供することが求められています。
そこで本記事では、医療業界のDX化に着目し、現状の課題やメリット・デメリット、そして実際の成功事例を紹介していきます。
医療業界のDXにおける課題
厚生労働省は近年、医療DXの政策を掲げており、医療分野のDX化推進を後押しするための様々な施策を行っています。しかし、以下のような理由から、DX化が順調に進んでいるとはいえないのが現状です。
1.個人情報漏洩の不安
患者の個人情報や診療情報はプライバシー性が非常に高く、IT化に伴い、万が一情報が漏洩するようなことがあれば大きな問題となります。DX化には情報管理体制やセキュリティ体制の強化に向けた知識や設備が必要となるため、規模が小さい医療機関・クリニックでは、新規システム等の導入に踏み切れない現状があります。
2.ITリテラシーの必要性
例えば、医療機関の受付において、日常的にパソコンやスマートフォンを使用していない高齢者などITリテラシーが低い患者の対応をする際は、書面での説明を行ったり、場合によっては電話でのやりとりが追加で発生してしまう可能性があります。医師や看護師、事務員など職員側にも、かんたんなITスキルしか持ち合わせていない人、多忙によりデジタルツールやシステムの使い方を学ぶ余裕がない人が多く存在します。
医療機関DX化のメリットとデメリット
医療機関のDX化には多くの可能性がある一方で、実際の現場では課題も少なくありません。メリットとデメリットの両面を理解し、慎重に進めるための視点が求められます。
メリット
1.医療サービスの質向上
医療機関のDX化が推進されることで、患者に提供されるさまざまな体験の質が向上します。例えば、オンライン診療を導入すると、遠方であっても受診ができるようになるほか、院内感染を防いだり、居住地を問わず希望する病院や医師の診察を受けたりすることが可能となり、医療格差の是正にもつながります。
2.医療現場の業務効率化
医療機関には、医療物品の在庫管理のほかにも、診療報酬明細書(レセプト)業務から、データ入力や問診表データの集計にいたるまで、多数の定型業務が存在します。これらをデジタルツールを用いて自動化することで、大幅な業務効率化やコストカット、医療従事者の長時間労働の解消といった効果が期待できます。
3.情報消失リスク減
病院やクリニックでは、カルテを未だに紙で管理しているところが多く、紙ベースのままでは必要な情報を即座に知りたいときに不便で、場合によっては紛失リスクもあります。しかし、DX化を進めることで検索性が高まり、クラウド管理に切り替えることでデータの消失リスクを回避できます。万が一自然災害などでサーバー自体が損失しても、必要なデータが失われることはありません。
デメリット
1.患者間でのデジタルデバイド
オンライン診療などDX化により、ITに慣れ親しんだ患者の体験は向上する一方で、デジタルツールを十分に使いこなすことができない人は恩恵を享受できず、両者の間で受けられるはずの医療に格差が生じてしまう恐れがあります。
2.セキュリティ対策の必要性
デジタル化が進むと、患者の個人情報などすべてのデータをシステム上で管理することになるため、情報漏洩のリスクを考慮しなければなりません。セキュリティが強力なシステムを選択したうえで、スタッフへの情報管理教育も徹底する必要性が生まれます。
3.導入コストの高さ
医療DXに向けたツールの導入は、コストが高いことも懸念点として挙げられます。近年、経営状況が悪化している医療機関は多くあり、デジタル機器の導入が困難な場合もあります。
医療業界におけるDX導入事例
医療現場におけるDX化は、デメリットを考慮する必要があるものの、確実にメリットの方が多くあります。例えば、以下3種の導入は、DX化の成功例として多くの医療機関から認知されています。
1.予約システム

予約システムは、予約の受付業務を自動化し、データ管理の効率化を実現します。導入企業者数が35万社を超え、350業種以上に対応した、業界トップシェアを誇るクラウド型予約システム「RESERVA(レゼルバ)」の場合、管理者側・ユーザー双方がデジタルツールに不慣れであっても、使いやすいシンプルな操作性が高く評価されています。
さらに、100以上ある機能の中から、例えばLINE連携機能を利用すると、連絡先の入力を省略できるなど予約のプロセスがかんたんになります。クレジット決済機能「レゼルバペイメント」なら、患者は事前の支払いができるようになり、予約当日の会計処理が不要になるのも利点です。RESERVAはセキュリティ対策も万全であり、暗号化による記載個人情報の盗聴や改ざんの防止、高度な監視による不正なアクセスや攻撃から守ってくれるため、安心して運用できます。
そして、RESERVAの最大の特徴の1つとして挙げられるのが、無料のフリープランを用意している点です。DX化に向けて費用を可能な限り抑えたい医療機関にとって、まずは無料で試せるところが魅力です。
参考サイト:RESERVA公式サイト「病院・クリニックの予約システム」
2.RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
近年、ロボットによる業務プロセスの自動化を可能にするRPAは、医療DXを推進する上で重要な役割を果たしています。カルテの記入や登録作業をはじめ、患者統計や処方情報の分析、在庫管理まで、幅広い業務で活用が進んでいます。
RPAの導入により、ロボットが迅速かつ正確に作業を担い、ルーティン業務を効率化できます。その結果、より多くの患者への診察対応が可能になり、病床や医師が限られた地域でも、高水準の医療提供を実現しやすくなります。
参考ページ:医療業界(病院・診療所)のRPA導入における成功事例7選や効率化できる業務、メリットなどを紹介
3.医療MaaS(Mobility as a Service)
従来の交通手段・サービスに、AIなどのさまざまなテクノロジーを掛け合わせたMaaSは、次世代の交通サービスとして期待されています。特に医療業界では、地域医療に新たな選択肢を与えてくれます。
例えば、長野県伊那市では患者宅に看護師と医療機能が搭載された車両を派遣し、車内でオンライン診療を行っています。医療・IT両面に精通した看護師が患者と同乗していることで、デジタルツールに不慣れな人でも的確なサポートが受けられます。
参考ページ:MONET Technologies株式会社「医療MaaS」
まとめ
厚生労働省の発表にもある通り、日本の高齢化問題は深刻であり、今後の医療業界は患者数が確実に増加していくことが予想されます。予約システムやRPA、医療MaaSなどの導入によって、現場の負担や医療格差は減少し、患者に対してはより安全で質の高い医療を提供することが可能になります。こうした背景からも、医療分野におけるDXのさらなる推進は不可欠であると言えるでしょう。