オープンキャンパスは、大学進学を希望する学生にとって重要な機会です。普段入ることができない大学に足を運ぶことで、大学生活をリアルに体験できます。リクルートが運営するリクルート進学総研は、「高校教育に関する調査2022」を実施し、9割以上の高校がオープンキャンパスに行くことを推奨していると発表しました。参加を促すために、体験したプログラムの内容や感想を課題として出す高校も多いです。
しかし、ここ数年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、従来通りの来校型のオープンキャンパスを行うことが難しくなりました。人数制限のため、原則1人で参加しなくてはならなかったり、滞在可能時間が少なかったりと、大学について十分知れずにオープンキャンパスを終えてしまった受験生も少なくありません。
そこで、本記事ではオープンキャンパスにおけるDX化に着目し、DX化を行うことでどのような利点があるのかを探っていきます。
オープンキャンパスにおけるDX化
まずDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、経済産業省が策定した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」では、以下のように定義づけされています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
つまり、DXとは、生産性向上や業務の効率化のために、デジタル技術を有効に活用して働き方やビジネスモデルを変革させることを指します。
オープンキャンパスにおいて、オンライン上で開かれるものがその例です。自身の志望する学部の説明会や講義などが閲覧でき、加えて、スマホで気軽に参加可能であるため、隙間時間に見れ交通費の削減にもなります。来校型と併用すると、密も避けられ安心です。
DX化は、受験生にとって必要なオープンキャンパスをさらに気軽に、身近に参加してもらうために重要な役割を担っています。
オープンキャンパスのDX化における課題
オープンキャンパスがDX化へ舵を切ったのは、新型コロナウイルスの影響が大きいです。しかし、それ以前から各業界ではDX化が推進されていたのにもかかわらず、なぜオープンキャンパスではDX化が進んでいなかったのでしょうか。
1.校風の雰囲気を生で感じられない
学生にとって、オープンキャンパスは実際にその大学の校風を体験できます。構内見学ツアーや授業体験会などで、実際に自身で見て聞くため、パンフレットや口コミだけでは伝わらないことを感じられます。入学してみたら、想像と全く違ったと後悔しないためにも、リアルにその大学の雰囲気を見る必要があります。
2.受験の際の下見ができない
実際に大学に行くことによって、どの路線を使うか、乗り換えのしやすさや最寄り駅から大学までの所要時間などを体感できます。ぶっつけ本番で試験となると、道に迷ったりや乗り換えミスなどが生じる可能性があります。それを避けるためにも、一度志望大学に赴くことが大切です。
3.出会いが制限される
志望大学に合格した先輩たちと出会えるのが、オープンキャンパスです。勉強方法やおすすめの参考書、実際の大学生活など、対面で相談できることで、勉強への意欲を高められます。さらに、どの大学や学部に進学したいかもわからないという人であっても、先輩方に大学の選び方や何を学んでいるか聞くことで、志望大学や学びたいことが見つけられるかもしれません。
オープンキャンパスがDX化するメリット・デメリット
DX化することによるメリットとデメリットを記していきます。
メリット
1.参加率が上がる
来校型のオープンキャンパスに行くとなると、学生はその日1日中予定を開けておく必要があり、受験勉強に時間を費やしたい人にとって、もったいないと感じてしまうかもしれません。また、気になる大学の日程がかぶっていて片方しか行けない場合も考えられます。しかし、オンライン型にすると、インターネット環境があれば好きな場所で受けることが可能です。移動にかかる費用や時間を削減できるため、参加率アップにつながります。
2.効率的に実施できる
オンライン型のオープンキャンパスでは、1度撮影した動画を配信しそれを参加者に見てもらう形になるので、何度も同じ説明会を開く必要がありません。さらに、教室の準備やパンフレットの配布などもしなくてすむため、コスト削減につながり効率的に実施できます。
デメリット
1.オンライン型だけでは物足りない
オンライン型のオープンキャンパスは、来校型と併用することが効果的です。選択肢としてオンライン型を残すだけであり、来校型も規模を縮小して行う大学がほとんどです。効率的に実施とはなっても、どちらも企画・運営しなくてはなりません。
2.システム導入に費用がかかる
DX化を進めるうえで、システムの導入は必要不可欠です。しかし、システム導入のハードルは高く、導入したとしても大学側のデジタルスキルの不足で、使いこなせない可能性も十分にあります。また、PCスペックやネット回線環境など、大勢の人が閲覧しても重くならない環境も必須です。参加者に快適に見てもらうためにも、インフラ整備は重要です。
大学によるDX化事例
一橋大学
一橋大学では、これまでの学部の説明会の動画をYouTubeチャンネルに投稿しており、いつでもさかのぼって閲覧できるようにしています。キャンパス紹介では、遠方の学生に寄り添うため大学構内の施設だけではなく寮生活の動画も配信しています。
早稲田大学
早稲田大学では、2020年度にオンライン型のオープンキャンパスを実施しており、2021年度からは来校型と併用して開催しています。現在では、リアルタイム配信型やオンデマンド型と別れており、オンデマンド型では掲載されている動画を何回も視聴できます。来校型のオープンキャンパスと異なり、期間がないため自分の都合のいい時間に見ることが可能です。
国際基督教大学(ICU)
世界各国からさまざまな学生が集う国際基督教大学(ICU)では、オンライン個別相談会に力を入れています。3月と8月を除いた月の一定期間に、Zoom上で開催しており、1人15分程度の時間で大学生と話すことができます。Web上でできるため、海外からICUを志望する学生でも気軽に参加可能です。
明治大学
明治大学では、360度カメラを使ったキャンパスツアー動画を配信しています。画面左上に構内の全体マップの画像が張られ、どこにいる確認しながらすすめられます。また、字幕で説明が表記されるので、早送りで視聴したとしても聞き逃すことなく安心してみることが可能です。
横浜国立大学
横浜国立大学では、オンライン専用の特設ページを作成しています。360度画像のバーチャルキャンパスツアーや学生や教員へのインタビュー動画も掲載されており、PCなどが慣れない学生にとっても見やすい仕様となっています。
まとめ
多くの大学がオープンキャンパスのDX化を推進中です。しかし、ほかの業界と比べると、まだまだ遅れをとっています。来校型とオンライン型の両方を利用しながらオープンキャンパスをDX化することは大学側が効率的に実施できるだけでなく、気軽にオープンキャンパスに参加できさまざまな大学に触れる機会が設けられる点で、学生側にとっても大きなメリットがあります。DX化による新しい形のオープンキャンパスは、これからもさらに活用されるでしょう。