日本政府観光局の「訪日外客数(2024年12月および年間推計値)」によると、2024年の年間訪日外客数は3,686万9,900人となり、年間最高記録を更新しました。国土交通省観光庁が作成した「訪日外客数・日本人出国数の推移」では、2023年以降、訪日外客数が増え続けていることがわかります。
また、観光庁が行った「インバウンド消費動向調査」によると、2024年の訪日外国人旅行の消費額は8兆1,257億円となっており、前年と比べて53.1%増加しています。この数字は、国際観光収入が大幅に上がったことを意味します。
日本各地で賑わいをみせる観光業界ですが、深刻な人手不足や低い生産性など多くの課題を抱えています。そこで課題解決の糸口となるのが「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」です。経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」ではDXを以下のように定義づけしています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
今後も観光客の増加が見込まれるため、業務の効率化や多言語対応に向けたDX推進は欠かせません。
本記事では、観光業界におけるDXに着目し、その課題やメリット、デメリット、そして国内における実際の導入事例を紹介し、実態を明らかにしていきます。
観光業界のDXにおける課題
2023年3月、観光庁は「観光DX推進のあり方に関する検討会」を行い、DX活用の方向性を定めました。それ以降、観光業界ではDXの推進を行っていますが、業界全体の一般化までは進んでいません。以下の項目で、具体的に観光業界のDX化が進んでいない理由について解説します。
1.必要性の無理解
観光業界における経営者は、比較的高齢者が多くなっています。高齢者のIT・デジタルに対する知識不足によって、DXの必要性が理解できず導入されない傾向にあります。特にDXが進んでいない地域においては、知識不足が深刻であると考えられます。従業員にDX化の意欲があったとしても、判断するのは経営層であるため、彼らのDXへの理解が求められます。
2.DX人材の確保
観光DXを実現するには、IT・デジタルに精通している人材の確保が不可欠です。経営者がDXに対する意欲があっても知識がない場合は、DX化すること自体が難しくなってしまいます。
2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」では、観光デジタル人材の育成と確保を促進すると明言されています。しかし2025年(現在)において、DX人材に関する具体的な実施例が確認できていません。観光業界全体にDX人材が普及するまでにはかなりの時間が要すると考えられます。
観光業界がDX化するメリットとデメリット
メリット
1.観光公害(オーバーツーリズム)の対策
観光公害とは、特定の観光地に観光客が集中しすぎた結果、地域住民の生活に悪影響を及ぼしたり、観光客の満足度を下げてしまう状況のことです。訪日外客数の増加は、日本各地に人が殺到していることを示しています。
この公害の対策に有効な手段が、DXの導入です。予約システムの導入で混雑を緩和したり、多言語による注意喚起でマナーを周知することで、地域住民の生活を守ることができます。
2.観光マーケティング
観光客の情報をデジタル化することによって、ビックデータの収集と分析が可能になります。観光客全体の好みやニーズを正確に分析することができるため、リピート客の獲得につながります。分析結果からは事業者側の課題もわかるので、従来より効果的なマーケティングが期待できます。
3.生産性の向上
観光業界は生産性が低いとされており、その要因としては人手不足や業務の多さが挙げられます。宿泊施設ではほとんど定休日がなく、なかには年中無休で営業している施設もあるため、労働環境の悪さが問題とされてきました。しかし、近年では観光業界のDX化により、こうした環境の改善が可能になっています。業務の効率化によって人手不足を補うことができるため、生産性の向上へとつながります。
デメリット
1.導入コストが高い
DXを進めるためには、インフラの整備やデジタル技術を導入する必要があるので、高額な費用がかかります。そのうえ、導入後はシステムを理解し使いこなせるようにしなくてはいけないため、従業員や顧客の負担が大きい傾向があります。
2.結果が出るまでの時間が長い
DXを導入したからといって、目に見える結果がすぐにでるわけではありません。データ分析であれば、収集までに一定期間を要します。導入する際には、すぐに結果や利益がでないと理解する必要があります。
3.高齢者のデジタルデバイド
高齢者の中には、デジタル技術に関する知識が乏しい人や、IT機器の操作に不慣れな人も少なくありません。そのため、DXの導入によって高齢者がうまく対応できない場合もあります。こうした状況に配慮し、アナログ対応との併用など、システム提供側の工夫が求められます。
観光業界におけるDX導入事例
予約システム

予約システムは予約受付→決済→顧客管理→集客まですべて自動化し、データ管理の効率化を可能にします。
「RESERVA(レゼルバ)」は導入数30万社を超える、業界トップシェアのクラウド型予約システムです。利用業態は350種類以上にのぼり、最短3分でサイトを作成できるシンプルな操作性が高く評価されています。
なかでも観光ツアー・ガイドを実施する企業・団体に適しており、インターネットを通じて24時間いつでも予約受付が可能です。予約希望者が複数人分まとめて予約できる団体予約受付機能や、予約者の属性によって異なる料金を設ける複数料金設定によって、効率的な業務運営や売り上げの向上が期待できます。
参考サイト:RESERVA「観光ガイド・観光ツアーのための予約システム」
京都市「スマートゴミ箱」

京都市では、株式会社木下カンセーが提供する「スマートゴミ箱」を市内各所に設置しました。スマートゴミ箱は、ある程度箱にゴミがたまると自動で約5分の1まで圧縮する仕組みになっており、通信機能でリアルタイムにゴミの蓄積状況を管理・分析することができます。本市では観光客によるポイ捨てが観光公害として問題になっていましたが、スマートゴミ箱の設置によって、今後の解決が期待されています。
参考サイト:京都市「株式会社木下カンセーからのスマートごみ箱の寄付に係るお披露目式及び篤志者表彰式」」
参考サイト:株式会社木下カンセー「「Iotを活用した「スマートごみ箱」を京都市に寄贈」
参考サイト:日本経済新聞「スマートゴミ箱、京都・八坂神社前に設置 市内5カ所目」
NEC ツアーガイドマッチング支援

NECソリューションイノベータでは、ツアーガイドマッチング支援を提供しています。同支援はガイド情報やツアー案件管理をクラウドサービスで効率化します。ツアーガイドのスケジュール管理から、案件の割り当てまでクラウド上で一元管理するため、業務効率化によりガイドと旅行会社の手間が軽減されます。
実際に導入した株式会社KNT-CTグローバルトラベルでは、通訳ガイドのアサインに要する手間や時間を30~40%削減し、業務フローの効率化に成功しました。
参考サイト:NECソリューションイノベータ「導入事例 株式会社KNT-CTグローバルトラベル様」
まとめ
観光業界におけるDX化は、膨大なデータ収集による分析で旅行者の満足度を上げるだけでなく、観光公害対策として地域住民の生活を守る手段にもなります。より多くの旅行者を受け入れるためには、観光地のDX化が欠かせません。